ニコ生ハイライト 2017.10.06

『HUNTER×HUNTER』休載を読み解く! 冨樫は「成長しない」って漫画の神様と約束した漫画家 (前編)

『HUNTER×HUNTER』休載を読み解く!
冨樫は「成長しない」って漫画の神様と約束した漫画家 (前編)【9/16ニコ生記事】

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今回は9月16日に放送された無料部分から漫画家山田玲司が『HUNTER×HUNTER』休載について語った部分をお届けします。

 

アシスタントおっくん(以下 おっくん):
『HUNTER×HUNTER』休載決定!ということです。今、訳わからんところで終わってるんですよね。

山田玲司(以下 山田):
なぜこんなに『HUNTER×HUNTER』がこんなにウケるのか?
そして冨樫義博という漫画家にみんなこんなに騒ぐのか?
俺も現役の漫画家だから「休載の気持ちとかわかるんじゃないですか?」と言われたりすることがあるんだよね。

おっくん:
うんうん。

山田:
俺、冨樫と同い年なんだよね。しかもデビューも一緒なんだよ。

おっくん:
ええ! 戦友じゃないですか。

山田:
戦友なんだよ。
俺の語り口は岡田斗司夫さんなんかとは違うんだよね。
「漫画家」としての見方だから。
「漫画家って何?」というところから行くわけだよ。
まずね、漫画家にとって一番幸せなのって何だと思う?

おっくん:
いい絵が描けた時ですか?

山田:
いい線ついてくるねえ。
原則的にはね、
「次どうなるんですか?」と聞かれるのが一番嬉しい。

おっくん:
ああ、なるほど。

山田:
しかも連載中なら特に
「次が楽しみで仕方ないです」
というのが、一番の賛辞なわけ。
二番目が
「あの漫画で人生変わりました」
と言われること。
これもけっこう嬉しい。
いい絵が描けるっていうのは、また別枠の喜びなんだよ。
実は冨樫という人、その「いい絵を描く」ということを蔑ろにしてるように見えるんだけど、意外とそっち側の人間なんだよ。
いい絵が描きたかったし、完成度の高いものを描きたかった。
でもあの過酷な状況で描けなかった。
そのことにずっと苦しんでいた人なんだよ。
調べれば調べるほど、その苦しみ方が半端じゃなかった。

 

 

作品の完成度と過酷な状況の間で苦悩し続けた男

 

山田:
知れば知るほどつらい。
『幽☆遊☆白書』の後半で、かなりやばいことになってたみたいだし、終わった後揉めているという話も聞いてた。
そのあとコミケに現れた、という話知ってる?

おっくん:
知らないです。

山田:
コミケに現れて自分で同人誌を売ってたんだ。
それで大騒ぎになったんだよ。
『幽☆遊☆白書』の終わり方についても悶着があってね。
自分のキャラクターを殺した、殺してないというので論争みたいなのがあったらしい。
ラストシーンも「え?さっきまで盛り上げてたのに全部やめるの?」みたいな感じだったみたい。
でもその時に
「自分がどれだけつらかったのか」
ということを、同人誌の中で書いていたんだよね。

おっくん:
ほおお。

山田:
ものすごく細かく書いてるんだよ。
しかも「連載を終えて、振り返れば敗北宣言。」と書いてある。
ほかにはこんなことも書いてて
「徹夜をすれば心臓に痛みが走り、その間隔が徐々に詰まってくるようになった」
体も限界だったんだね。
一週間のうち半日くらいしか寝られない状態だったみたい。
それ以外は全部仮眠で。
そうしないと自分が納得する絵が描けない。

おっくん:
ひえええ。

山田:
でもそれではもう体がもたない。
ちゃんと寝ることにしたら、締め切りに間に合わなくなってしまった。
それで周囲にすごく迷惑をかけてしまった。
でもこのまま仕事で過労死は嫌だ。
ぽっくりいくなら、遊んでいる時か、趣味で原稿を描いている時がいい。
「カラー原稿怖い!」「読み切り怖い!」
そういう心の叫びが聞こえてくるようなことを書いてるの。
これ、一体だれが冨樫を責められるの?って話だよね。
おっくん:
うんうん。
山田:
でも彼にとって一番のストレスは、原稿が満足にできないことだったんだ。
そしてそのストレスを解消するには、ひとりで原稿を仕上げるしかなかったんだ。
漫画の苦しみを漫画で解決させるというのは、よくある話なの。
こっちの漫画がつらいからこっちの漫画で息抜きしなきゃというのは、漫画家はよくやるんだよ。
でもやってることは何かって言うと、ひたすら地味にデスクワークすること。
そりゃ腰も悪くするよね。
匍匐前進しかできない時期もあったんだって。
ずっと腰を痛めてて、うつぶせで描いてるという噂もあったくらい。
そういうぎりぎりの状態でやってるのが、冨樫義博という男ですね。
おっくん:
そうだったんだ。

 

80年代スーパー絵師達の中にいた冨樫

 

山田:
冨樫の絵がとても荒れる時があったでしょ。
その時それを見てて思ったんだけどね。
少年ジャンプって、空の描写にトーンをあまり貼らないんだよね。
おっくん:
ほうほう?

 

山田:
空の描写って、トーンを貼って削って雲を描いたりするんだよ。
俺江川さんのところでさんざん雲を削る作業やらされたの。藤島康介と一緒に(笑)。
トーンナイフを寝かせてね、腹で削るの。
そうしたらぼやっとした感じがでる。
これすごく大変なんだけど、決まると嬉しいの。
だけど鳥山明が登場して『ドラゴンボール』描くようになると、トーンなんて貼りやしねえ(笑)
細い線でサラサラサラと雲を描いてしまう。
太い線が細くなるというのが80年代にブームになるんだけど、このあと画面が白くなるという流れがあるんだよ。
『ドラゴンボール』以降ね。
この流れの行きつく先はどこなのか?
「おもしろい話(ネーム)だったら絵なんかどうでもいいんだよ」
ということなんだよね。
それは鳥山さんの心の叫びでもあった。
そして俺は、その流れを冨樫が継いだのかと思ったんだよ。
それくらい、お話に自信があるのかなと思ったの。
おっくん:
ああ、なるほど。
山田:
だからパンクかと思った。
それならそれでカッコイイと思った。
でも違ったの。
本人はちゃんと描きたかったの。
すごく不本意だった。
そしてその不本意な漫画を出す苦しみというのは、漫画家にしかわからない。
ほんとはちゃんと描きたかった。
でも描けなかった。
その苦しみと彼はずっと戦ってきたんだよね。
おっくん:
それはつらいですね。
山田:
『BASTARD!!』という漫画もジャンプで連載してたでしょう。
その作者、萩原さんの原稿を見せられたことがあるんだって。
めっちゃ上手かったんだって。
これはかなわない、というレベルだったみたい。
冨樫さん、『美少女戦士セーラームーン』の作者の人と結婚するでしょう?
その出会いも萩原さんつながりみたいね。
萩原さんの周りって絵師ばかりだからね。
おっくん:
ああ、なるほど。
山田:
80年代のヒーローであるスーパー絵師たちがいっぱいいる中に冨樫はいたんだよ。
なのに自分の絵は荒れていく。
これはつらいよ。
そういう苦しみの中にずっといたんだよね。
『幽☆遊☆白書』の中に暗黒武術会編というのがあるんだよ。
そこに出ることになる主人公たち。
彼らに拒否権はない。
生き残るためには勝つしかない。
これってジャンプそのものでしょう。選択しないんだよ。
おっくん:
そうですね。
山田:
行くしかないし、勝つしかない。
それが少年ジャンプ。
これ心象風景としか思えないね。
そしてこれぞあの頃のジャパン。死んだらおしまいという価値観。
そういう読者の気持ちとリンクする。そういうのも読み取れるよね。

 

(後編に続く)

 

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