絶望に効くお薬処方箋 漫画家 山田玲司 公式サイト

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コラム 2017.07.30

【第74号】「安心」という罠 「不安」という燃料

山田玲司のヤングサンデー 第74号 2016/3/7
「安心」という罠 「不安」という燃料
 
「破綻」が止まらない
なんだか最近、同世代の友人達が悲惨な状況になっているという報告が増えてきて滅入ってます。
仕事に関しても結婚生活に関しても実質的に破綻している人ばかりで、みんな元気がない。
特に男女関係に関しては、まともに続いている人達なんかほとんどいません。
もう笑うしかない。
かろうじて体裁を保っている夫婦も、子供のため、経済的理由のため、どちらかが1方的に我慢しているケースがほとんどです。
その場合の多くは「妻の方」が旦那に愛想をつかして、形だけの夫婦を続けています。
既婚の男女それぞれから聞く、結婚生活の現実は、幸せな関係が続いているケースはまずない上に、双方が何かしらのチャンスがあれば(相手を捨てて)そこから脱出したいと思っていたりします。
人の不倫をあれだけ批判する社会の背景には、こんな「嘘だらけの愛のない暮らし」に耐えている大人ばかりだからかもしれない。

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「終わらない愛」を信じるか?
こんな話はとっくに国民全体が感じている事なんだけど、2、30代の未婚の人達の恋愛相談を受けていると「自分だけは結婚して死ぬまで愛しあうので大丈夫です」とか言うのです。
これが20代前半か10代後半の女子になると、夢はもっと大きくて「結婚相手はイケメンで年収ハンパなくて、毎年海外旅行に連れて行ってくれて、死ぬまでラブラブで、浮気したら殺す」みたいな事を言っていたりします。
そんなヤツ、もう絶滅した?
うん、確かに減りましたね。このセリフも半分は先日のViviに載っていたあるモデルさんの発言ですしね。
まあ、トップモデルならこれくらい言うかもしれないけど、言わなくてもこれに近い夢を抱えているのが「女子」です。見た目がカッコ良い人が好きになるのは当たり前だし、収入が多い方がいいに決まっているし、死ぬまで愛し合えればいいに決まってます。
とはいえ、現実の男(イケメン)は見た目ほどの中身がなかったり、女をポイ捨てする事で、モテなかった悲惨な過去の復讐をしている「成功した男」もいるので、問題なのはこいつらなんですけどね。
もちろん男の方も「かなりの妄想」を抱えて生きているもので「アイドル並のルックスの20代前半くらいの、性格が良くて庶民的でクラブとか行かない、スマホのチェックもしない、絶対に浮気しない、自分だけを見ててくれる女の子」なんかを(人には言わなくても)本気で待っていたりします。
現実はそんなに甘くないので、男女ともいい年になれば、目が覚めてくるものなんだけど、相手の条件を現実的なレベルに下げて、愛する人に出会えても「相手の心がいつまでも変わらないか?」というと、それはわかりません。
問題はこの「終わらない愛」を信じていると、愛の終わりに耐えられない、という事で、そんな「すべての変わってしまうもの」に対する不安を「見ないこと」にしてしまう事なのです。
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「不安」は取り去れるか?
そんな不安な心を満たそうと「とにかく結婚すれば大丈夫」と、籍を入れても人の愛はそんな事で維持できるものではありません。
なので、安心を得ようと思って契約だの約束だのをして、それに期待した人ほど「がっかり」は大きく、破綻した関係を持て余すわけです。
これは漫画の世界でもよくある話で、「デビューすれば大丈夫」とか「連載できたら大丈夫」とか「ヒット作が出たら大丈夫」とか思っていても、現実はデビュー出来ても連載には中々繋がらないし、仮にヒットが出せても、現役でいるのは大変です。
大学受験でも同じで「有名大学に合格さえすればもう大丈夫」というのは妄想です。
もちろん有名大学に入った事のアドバンテージはあるんだけれど、それを有効に使えるかどうかはその人の行動次第なわけで、逆に中卒である事が人生を豊かにしていくケースもあって、学歴なんかには「絶対安心の効力」なんてないのです。
問題なのは「これでもう安心」と、人生を自動運転に切り替えてしまうことです。
結婚したからもう大丈夫、と言って相手の事を見てなかったり、話を聞かなかったりしていたら、パートナーは「形だけのもの」になってしまいます。
漫画も「ヒットしたからもう大丈夫」と思って、読者をナメて適当な話や絵を描いていると、その「不誠実さ」は必ず読者に伝わってしまうものです。
人生は不安だらけで、未来の事はわかりません。
なので、なんとか「契約」や「既成事実」や「実績」なんかを重ねて安心にしたいのが人間だと思います。
でも、この「安心してしまう」というのが、案外人を「不幸」にしてしまうものなのです。
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「安心」が消してしまうものとは?
僕は学校の先生に多くの失望をしてきました。
儒教社会で素直に育ったので、先生なるものは尊敬しなければならない、と思っていたからです。
でも実情は、どうにもならない失望ばかりを味わうことになりました。
1部の「頑張っている先生」には感謝しているのだけれど、どうにも「学校の先生」というのは、「何かが見えていない感じ」がしたのです。
当時はよくわからなかったけれど、おそらくそれは「もう先生になったから、自分は安心」という思いがある「安心している人間」と、「この先どうしよう」と思っている「不安」な生徒との間に見えない河が流れていたのだと思うのです。
これは編集者と漫画家の関係にもあって、「もう就職したから大丈夫」と思っている編集者と「この先私は大丈夫なのか?」と思っている漫画家との間には、これもまた「深い河」が流れているものなのです。
もちろん文明社会で生きている人間には、完全に保証がない「フリーな人生」を生きる強さはないし、どんなに大きな企業に属していても、常に不確定要素があり、不安からは逃げられない。
現実は漫画家も編集者も、独身も既婚者も、不安を抱えているのには変わりがないのだ。
では、どうしたらいいか?といえば、不安を味方にするしかない。
自分の生活に「何かしらの不安」があるなら、それは自分にとって、リアルに生きていくための「燃料」になると思ったらいい。
そして、この「どうなるかわからない」という状態は、「生きている実感」とセットなのです。
いつ襲われるかわからない野生動物が能力にすぐれ、美しいのはそのせいなのです。
危機を感じて考えて行動している「不安な人生を生きている人」には「安心」の中で油断して生きている人にはない「力」や「美しさ」があるわけで、だからこそ「何かしらの不安」の中で生きている人間がクリエイティブなものを生み出せるのです。
・今は自分を大事にしてくれる「恋人」も、明日には心が変わってしまうかもしれない。
・毎年安定した収入をくれる今の仕事も、来月にはなくなってしまうかもしれない。
・今は元気に暮らしているけれど、来年は病気になって入院しているかもしれない。
こんなふうに「不安」にはキリがないけど、それを防ぐための「契約」だの「保険」だのにいくら縋っても、ダメになる時はダメになってしまうのだ。
だったら、今を幸せに感じて、様々な事に感謝しながら、できる事に全力を尽くすしかないのだ。
浮気の心配する前に相手の悩みを聞く。仕事の心配をするなら、できる仕事を増やす。
病気を心配するなら、身体を動かすのだ。
「不安」が来たら、それを心の燃料にしよう。
安心は僕らを眠らせてくれるけど、眠ったまま死んでいくのはつまらない。
人生という「物語」は「ちと不安定」くらいがちょうどいいのだ。
N’夙川ボーイズの輝きは、いつ終わるかわからない「不安定な9年間」を走り抜けたからこそ「本当の輝き」を放って僕らを打ちのめしてくれたのだ。
大丈夫。死んだらもう心配する事もないんだ。
「不安」とは、生きているからこそ味わえる「贅沢なエナジードリンク」なのだ。
そんなわけで、今週の放送は、現代の将棋漫画の最高峰「ハチワンダイバー」と「3月のライオン」徹底分析から見える「アバター派か?裸心派か?生き延びるのはどのダイバーか?」特集です。
それでは皆様、春までもうすぐ、不安を相棒にして、今週もがんばれよー!
 山田玲司

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企画編集:山田玲司
矢村秋歩
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