コラム 2017.08.05

【第80号】「手の大きな恐竜」の話

山田玲司のヤングサンデー 第80号 2016/4/18
「手の大きな恐竜」の話

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今回の放送では「売れる漫画とは何か?」と言う話をしました。
でも本当はこういう話は好きではないんです。
「売れるかどうか?」なんてね。品が悪くてね。
本当は「いい漫画」が描きたいだけでね。
でもそれでは漫画家はやっていけないんで、この問題を取り上げたんです。
僕にとっての「いい漫画」とは?というと、それは「誠実な漫画」です。
「真面目」ってことではありません。デタラメでもエロエロでもいいんです。整合性やデッサンをちゃんとしろ、って話でもありません。
それは今の自分が作ることができる最高の漫画で、「今の自分にとっての最高のもの」が詰まった「読者へのプレゼント」です。
単なる「これがかっこいい」という「見せ方でのプレゼント」から、昔から考えてきた哲学的問い(人はなぜ生きるのか?など)に対する答えまで様々な「個人的なプレゼント」が詰まった漫画です。
一方「悪い漫画」とは何か?と言えば、当然「不誠実な漫画」です。
どういうものが不誠実か?というと、流行のキャラ造形に耳障りの良いセリフと安易なメッセージで、それらしくでっち上げられた「売れればどうでもいい」というタイプの漫画です。
これは邦画全般にも言える話です。
そんなものを売ってしまうと、受け手の期待値を下げてしまい、漫画や邦画から人が離れてしまうので、本当に迷惑な話です。
美味しいと感じれば栄養がなかろうが、「毒」を入れようが、かまわない、と思っている食品会社のようなものですからね。
要するに「いいもの」イコール「売れるもの」ではないのです。
そんなこんなで、色々考えていると、もう「売れるための漫画なんか描くもんか!」なんて気分になってしまうわけです。
とは言っても「いいもの」を描いているのに売れずに苦しむ(ゴッホみたいな)人にもなりたくないですよね。
この話はどうしても「ヒット作なんて運だとか、要領だとかで決まるんだ」みたいな話になってしまって、殺伐とした気分になるものです。
でもそんな中で、運というやつが巡ってきた時に「準備をしているかどうか?」は大事なことです。
自分の芸風がそのままで受け入れられる時代も来るかもしれないので、その時のための準備をしつつ。まずは「自分にとって売れる(受け入れてもらえる)可能性があるものを作ろう」というのが今回の話でした。
要するに人生の序盤戦では、本当に作りたいものを作りつつ、自分に向いたネタやジャンルで「受け入れてもらえる漫画」で結果を出せばいいんです。
ここでプライド抱えて意地を張っても、ゴッホになるだけです。(なれたらまだいいけど)
「売るのが仕事」の出版の世界で、売れないのは話にならない(チャンスすらもらえない)からね。
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「今ないもの」の売り方
みんなが買いたいと思うコンテンツを1言で言うと、「今はない面白いもの」です。
でも、あまりに「見たことがないもの《知らないもの》」では分かりづらくて、受け入れてもらえない可能性が高い。
どこか「お馴染みの感じ」がないと、感性の鋭い人にしか理解されません。
そこで今回の番組で言っていた「定番のもの」と「自分しか持っていないもの」の組み合わせが有効になるのです。
定番の語り口や、定番の要素を使って、今ないモノを伝えやすくするのが「今ないコンテンツ」を売る方法なのです。
誠実な「恐竜番組」とは?
僕は動物や恐竜なんかの番組が大好きなんだけど、動物のかわいい動画を集めただけのものや、人気タレントが動物と戯れるだけの番組は気分が悪くなるので観ません。
動物が可愛いのなんて当たり前だからです。
同様に恐竜の番組にもつまらないものが沢山あります。くそリアルな恐竜のCGも、知ったかぶりの恐竜好きタレントなんかのリアクションなんかもいりません。
どうしても「こういうので満足すんだろ?」という番組制作者の顔が浮かんでしまうからです。
そんな中でBBCの制作する恐竜番組には素晴らしいものが沢山あります。
彼らが素晴らしいのは、その「見せ方」です。
あるシリーズでは古生物学者が2億年前の海にボートで出て行ってアンモナイトとか海竜とかと出会う、みたいなのを本気でロケをして作りこんでました。
そのアイデア自体はそれほど斬新ではないものの、本気で再現された過去の海の姿にはワクワクします。
今回もロンドンにかつて生きていた恐竜を、今のロンドンに出現させる、という試みに挑戦しています。
その番組でもいくつか恐竜の「斬新な見せ方」に成功していて、中々に面白い番組なんだけど、そんなのばかり観ている僕はもう1つ物足りないわけです。贅沢に慣れすぎで。
でも、そんな時に1番ワクワクするのは最近発見された最新恐竜の再現です。
そういう時BBCのいつもの「定番クオリティ」に、「見たことのないモノ」が入ってくるのです。
これぞ「新定番」の生まれる瞬間です。
古生物学者達の地道な作業で発見された「彼らしか知らないもの」が定番に結びついて生まれた「プレゼント」です。
これぞ、「誠実な恐竜番組」だよね。
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手の大きな恐竜
何年か前に「恐竜の手の化石」が発見されて話題になった。何が面白いって、その手は2メートルもあったのだ。
ティラノサウルスのように直立歩行する恐竜の手は小さいのが普通だったのだから、面白すぎる。
そして、数年前に手以外の部分の化石が発見されて、そいつの全体像が見えてきた。
この恐竜の名前はデイノケイルス。
既存の恐竜のイメージをまた1つ塗り替えてくれた、かっこいい恐竜だ。
これはそれまでお馴染みだったティラノサウルスとかトリケラトプスの組み合わせでなんとか観せていた恐竜番組に新鮮な1撃になる。
ビートルズとかデビット・ボウイとかマイルス・デイヴィスみたいな「お馴染みの恐竜ミュージシャン」をミックスして曲を作っていた人の前に新たなる神(恐竜)の登場!みたいな話だ。
ワクワクしないわけがない。
ミクスチャーを超えるもの
今はあまりにもコンテンツが溢れていて、自分の人生の思い出も「コンテンツ」が大きく関わってくる。
団塊世代に学生運動が外せないのと同様に、今の40代の人の人生に「ガンダム」は欠かせないし、30代の人間に「エヴァ」は欠かせないし、20代の人の人生に「ポケモン」が無関係だったとは誰も言えない。
なので、今の世代は過去のコンテンツを素材にして、そこから自分のコンテンツを作るようになった。
でも、それらの思い出コンテンツの組み合わせだけで何かを作り続けるのは、限界がある。
ミクスチャー世代の人が「冴えたプレゼント(最新コンテンツ)」を作れるとするならば、それは「その人にとってのデイノケイルス(新恐竜)」を見つけるしかないのだ。
それは何か?どこにあるのか?といえば、「個人の体験」の中にしかない。
「誰かを好きになってフラれた」ってだけの体験でも、その人にしか体験できなかった「何か」がある。
それは簡単に「コピペ」はできない宝物だ。
昔の人気恐竜を最新CGで再現して、いつものタレントでスタジオパート、みたいなモノ作りをしていては、売れるも売れないも、未来はないのだ。
とにかく覚悟をキメて「私のデイノケイルス」を探しにいこう。
それはともかく、九州が心配です。瀬戸内海の各県も心配です。
これをみんなが読んでいる時には「前世代の呪い」にかかった連中が原発マネー(人命捨てた金儲け)を諦めてくれるといいんだけどね。
とにかく、生き残ったなら前を向こう。
今週も頑張れよ!!
 山田玲司

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企画編集:山田玲司
矢村秋歩
発  行:株式会社タチワニ
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