絶望に効くお薬処方箋 漫画家 山田玲司 公式サイト

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コラム 2017.09.08

【第113号】「この世界の片隅に」という作品が「縫い付けたもの」とは?

山田玲司のヤングサンデー 第113号 2016/12/5

「この世界の片隅に」という作品が「縫い付けたもの」とは?

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とにかく「絶賛する人」が多すぎる。
評価の割れている作品にも「いいものはある」とは言うけれど、今回は少しばかり雰囲気が違う。
映画「この世界の片隅に」が公開されてから、なんか異様な空気を感じていました。
こういう時は自前の「ひねくれスイッチ」を作動させたくなるんだけど、今回はそれを止めて素直にこの映画を観に行きました。
詳しい感想や解説や分析は、番組でしっかりやろうと思うんだけどね。
初見の感想を聞かれれば、感謝と反省の入り混じった気分と、なにか言葉にできない猛烈な「気持ちの渦」が全ての「言葉」を封じてしまって、長いこと言葉が出なかった、という・・・そんな感じだった。
はっきり言って、圧倒的に素晴らしかった。
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映画だの漫画だの音楽だのを商売にしていると、とにかく「結果」(売り上げ)を求められる。
「これはそこそこでも次につながればいいよ」なんていう余裕はなく、これを外したら終わり、みたいな緊迫感の中でみんなが「結果の出せるコンテンツ」を作ることを責務に崖っぷちの仕事をしている時代だ。
とにかく「売れればなんでもいい」という感じが今のエンタメ業界だ。
これを食品業界で例えるなら「美味しそうで、売れるなら添加物だろうが着色料だろうが有害物質だろうが入れても仕方ない」みたいな感じだろう。
そんなこんなで「見た目と口当たりだけはいい、ろくでもないもの」「身体(人生)によくないもの」みたいなコンテンツだらけになっている。
そんな中で仕事をしていると、作品を作り始めたころにあった「いいものを作りたい」なんて気持ちはどこかにいってしまう。そんなものは殺さないと続けていけないくらいに厳しい状況なのだ。
僕もそんな業界で「いいものを作りたい」という気持ちと「売れないと後がない」という気持ちの間でずっと苦しんでいる。
そう、今もね。
そんな中に「この世界の片隅に」の登場。そして大絶賛だ。
「神はいた」って気分だ。
計算でコンテンツを作っている「エンタメビジネス」の人達はこの映画を観て激震をくらっただろう。
これを観て1つも反省しないなら、その人はそもそも「人の心を動かせる感性」なんかないだろうから、仕事を変えたほうがいいだろう。
この原作の漫画が始まったのが07年。
約10年かかってこの作者の思いは全国に伝わったというわけだ。
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「新世紀エヴァンゲリオン」を観ていると、このアニメの生まれた時代が「崩壊の予感」に怯えていたのを思い出す。
実は「崩壊」なんかとっくに始まっていたのだけれど、まだまだ「豊かな時代の残像」が残っていて、まだまだ「自分達の乗っている船」がすでに沈んでいることを受け入れかねていたのが90年代後半の空気だった。
「ドラゴンヘッド」「あずみ」「ハルヒ」「化物語」「まどか☆マギカ」と、時代は深刻さを深めていくのが0年代前半で、その時の気分は「なんかヤバいことになってきたよ」から「怖いよ」という感じになり、「進撃の巨人」でその気分はピークになる。
0年代解説で言っていたけど、この時代は同時に、バブル崩壊や環境問題なんかは「なかったこと」として「平和な日常生活」を愛でようというコンテンツに救いを求め出す。
「ヤンキー系」は地元の彼女と一生の愛を歌い上げ、オタ系は男のいない世界の美少女たちの日常に癒やされていた。
そして10年代。いよいよ本格的な崩壊が目に見えて現実を襲ってきた。
「覚悟を決めろ」と言っていた15年の「マッドマックス」に対して、16年の日本では「それでも(若手)官僚と科学者に期待しよう」という「シン・ゴジラ」と「あんな災害はなければ良かったのに」という「君の名は」を選んだ。
この国の10年代の気分を1言で表すと「泣きたいよ」だろう。
そして「この世界の片隅に」だ。
これは一見「泣きたいよ」映画に見えるかもしれないけれど、そんなに浅くはない。
「お金が全て」という戦後の経済社会の中で抜け出してしまった「人間の魂」の話なのだ。
「昭和は良かったね」というのでもない。「助け合い」だの「愛」だのの話でもない。
ウルトラQに「カネゴン」という怪獣が出てくる。
これは「お金に取り憑かれた少年」が怪獣カネゴンに変わってしまう、という話だった。
戦後の拝金主義が「人間」を「怪獣」にしてしまうことを当時の日本人はわかっていた。
そして50年。
人の心に「美」をプレゼントするはずのエンタメ産業にいる人の多くが「カネゴン」になってしまった。
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そういえば、かつて沖縄では「子供からは魂が抜けてしまいやすい」と言われていたらしい。
魂は抜けてしまうのは決まって背中からだそうで、沖縄のユタの人は子供の着物の背中に魂を逃がさないようにする刺繍をしたらしい。
思えば戦後の日本人はみな魂が抜けてしまっているのかもしれない。
「この世界の片隅に」という作品には、まだ「魂が抜け出していない頃」の日本人が沢山出てくる。
このまま船(今までの社会)は沈んでしまうだろう。確かにそれは「怖い」し、「なかったことにしたい」し、「誰かがなんとかしてくれる、と思いたい」ってのはわかるけどね。
でも「その時」がきたら冷たい海でも泳いで生き抜く、という強さこそ「これからの時代」に必要なんだよね。
冷たい手をさすりながら、笑う。
やばいねえ。これが「美」でなくて何なのだろう。
 山田玲司

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