絶望に効くお薬処方箋 漫画家 山田玲司 公式サイト

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コラム 2017.05.18

【第2号】受験後遺症の克服というテーマを持つ「進撃」と「黒子」

こんにちは山田玲司です。

 

治虫にゃんが憑いてる
その昔、芸術家は「語らずに作れ」と言われていたという話を聞いたことがある。
「言いたい事は作品で語れ」という事なんだろう。
僕はかつて「ソトコト」という雑誌で職人さんに取材して漫画にする連載をしていたんだけど、その時の職人さんにもどこかそういう所があった。特に年齢の上の方は「そういうもんなんだ」という「理屈抜き」「解説抜き」のオーラがあった。
実際、良くしゃべる職人さんも、やたらと自作を語り倒す芸術家もいるので一概には言えないけど、とにかく僕は「語らない作り手」に憧れていた。
なので「僕の言いたい事は漫画に描いてありますから」みたいにかっこつけてたバカ男だった時期もありました。そのくせ出たがりで話たがりなもんで結局イベントだのあとがきだのでさんざん語りまくっていたからもうワケがわからない。
とにかく自分は「面白い」と思ったことは伝えないと気が済まないのだ。
そんなわけで「もういいや言いたい事言おう!やりたい事できる場所作ろう!」と思い今回のニコ生チャンネルなわけです。
かつての「語らない芸術家」の人がこんな作り手が「ネットの生放送」で2時間もしゃべり続けたり「人様の作品」を延々と論じてたりするのを見たら呆れるだろうね。
でも。じゃあもし今手塚先生が生きてたらどうしてたか?と考えると、やっぱり最前線の人でいたい人だから「ニコ生」なんか普通にやっていたと思うし、僕はその放送がものすごく見てみたかった。
もし手塚先生がニコ生で「今週の特集は僕が見たAKIRAです」なんてやってくれたらもう最高だ。どうしよう。
前回の「ジバニャンブーム」的に言うなら、僕には「治虫にゃん」が取り憑いているので生きている現役漫画家でニコ動があるなら僕がやらないと、治虫にゃんは許してはくれないのだ。
そんなわけで毎回放送後は完全に動けなくなるほど「メンタルにダメージ」をうけるのだけど、思ったよりずっと皆さん暖かく迎えてくれてて、やっぱり始めて良かったと思ってます。
さて、1回目の進撃の巨人 2回目の黒子のバスケと近年の大ヒット作を初めてちゃんと読んで分析をしたわけですが、ここでこの2作品の面白い共通点を発見したので書いておきます。

黒子と進撃はなぜ売れたか?
1回目の放送で、「メガヒットになるかどうかは時代の気分を象徴しているかどうかが最重要」だと言ったけど、この2作品は様々な完全に「時代の気分を象徴している」
その上「前の世代が作った洗練されたメソッド」もしっかりと入っていて、物語が危うげな進撃も「この先どうしよう」という展開の問題を大きく暴走することなく進めている。
とにかく「真面目」で「優等生」な2作品だ。
読んでいて1番感じるのはやっぱり「閉鎖感」「世界の狭さ」「人間関係の狭さ」と枠の外には人はいないかのごとく「内輪」で話は展開する息苦しさだ。
黒子に関しては何度か「外国人」や「不良」などのお「外にいる人」を象徴するキャラクターを導入するのだけど、どうも噛み合わないままで終わっていく印象がある。
おそらくこの2人は学校と塾の体験が人生のメイン経験で、その後の漫画家になるための期間と合わせて「レースに勝つんだ」という環境にいたはずだ。その中でクラスメイトが仲間であり敵である、という不条理の中で一応は「勝ってきた」わけだ。
黒子の藤巻先生は大学受験も成功したものの、幸せを感じなかったのだと思う。
それは「自分だけが勝っても幸せじゃない」というテーマになる。
一方で進撃の方も一応は入隊して壁の外に出るのだから、大分から東京に行くという気分が乗っている。彼の作品の方が「外に対する恐怖」が大きいのはやっぱり「上京」「社会に出る」という事が(本人いわく)リア充ではない人間にとって、いかに「外」の世界が恐ろしいか、という気分に重なっている。
進撃がより現代的なのはその「壁」がそれまで日本を守ってきてくれたものが崩壊していく時代の不安感に見事に乗っているのと、壁の中(日米安保の国内、安全な自分の部屋)に踏み込んでくる「意思の疎通ができない圧倒的なもの」への恐怖が表現できているからだ。
この2作品、2作者の共通する感覚はやはり「受験体験の後遺症」だと思う。
「仲間のはずが敵」という人間関係と「勝っても不幸」という不条理な努力に対する怒りがこの2作品に乗っているのだ。
「受験なんか意味ない!」と言って勉強しなかった漫画家が描いた漫画ではなく「勉強したのに不幸」という体験から生まれた漫画なのだ。
思い出すのは「デジモン」だ。
あの作品は「ポケモン」のような解放感がなく、実に暗い世界観と狭い人間関係の印象があった。そして登場人物はみんな「良い服」をきていて、しつけのいい感じの子供ばかりだった。
あれを見たとき「私立の名門に入るための塾みたいな空気」を感じた。
そんなわけで、今の子供は「ゆとり」だの「軟弱」だのいう前に、どんな気分で生きてきたかを考えたい。
まったく気の毒だとしか言いようがない。
せめて恋愛はして欲しいので、次回15日の放送は「恋愛」そして「ハチクロ」を取り上げます。

 

山田玲司
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