インタビュー 2017.10.09

『シェアボーイ』スペシャルインタビュー

【スペシャルインタビュー企画】
山田玲司に聞いたシェアボーイ誕生の秘密

現在「月間スピリッツ」にて『CICADA』を連載中の山田玲司さん。今年の五月には絵本作品である『UMA水族館』を発表。さらに毎週水曜日はニコニコ生放送にて『山田玲司のヤングサンデー』を放送されるなど多方面で活躍。
そんな山田さんが今回新たな試みとして、自身の公式ホームページにて新作漫画『シェアボーイ』を公開とのこと。今回は『シェアボーイ』公開に至った経緯や作品に込めた思いを語っていただきました。

せっかくネットでやるんだったら、できることやっちゃおうかなって

――まず率直に今回のシェアボーイに山田さんが込めた思いみたいなものがあればお聞かせください。

 

山田玲司(以下、山田) ジャンセンていう画家がいて、この人がリトグラフをやったりしていて、ペンとか使った線画で一色の色をつける、もしくは一色プラスアルファの色で塗っていくって画家がいてね。日本ではあまり有名ではないんだけど、大学の頃から大好きだったんだ。
シェアボーイはその人のイメージで実は作ろうと思っていて。そうなると今までなかった感じの漫画の絵になるだろうと思って。この人は女の裸もすごく上手いんだよね。
だからジャンセンのイメージで漫画ができないだろうかっていうのが、実は今回の裏テーマの一つにあるっていうか。そうすると商業誌ではちょっと有り得ない感じのものが世の中に出ると。それはちょっと面白いかなと思って。どういう反応があるかっていうのはちょっと楽しみだなと。

――なるほど。プロの漫画家が自作を商業誌ではなく自分のホームページで公開するという試みは普通はあまりない思うんですが、そこに至った経緯なんかも詳しく聴いてみたいのですが。

 

山田 単純にこれスピリッツの企画だったんだけど、始まってしまうとかなりスピリッツよりのものになってしまうなっていうのはあったんだ。絵の部分とか特にね。だから商業誌寄りのものが求められるだろうなって予想はしてたんだけど。
実はそこに始められなかった理由もあって、それが「女が男に教える」っていう今回の企画自体があんまり男性読者は好きじゃないんだよね。
女に教わりたいと思ってない、それはちょっと好きじゃないんじゃないかなっていう編集の判断で今回企画が弾かれてしまって。それで他に持っていってもいいんだけど、だったらとりあえず自分の理想の形をまず一回やってみて「こういうふうにやりたいんだ」っていうのを世の中に出してから、あとは判断してもらえばいいかなと思ってね。それでこういうことになったんだ。
前に描いた『モテない女は罪である(大和書房)』も男から女が教わってる形式になってるんだけど、あれは女の人にとってはちょっと好きじゃないって人もいてね。中で描かれてることも厳しめだしね。わりとキツめの内容となると、同性から許せるけど異性からは嫌だっていうのが読者にはあるみたいで。
だから僕の中でも「異性から教わる形で恋愛を描く」みたいなものは最後かなと思ってるんだよ。

―― 読者側が自分で気づくような形にもっていかないと厳しいのかもしれませんね。今の世間の空気を見ているとみなさん余裕がないのかもしれません。

 

山田 そうだね。こういう説教みたいな形での話は聞きたくないと思ってる人が多いのかなって思って。だったらとりあえず今回はこれやってみて、あとでまた違うやり方で伝える方法を考えようかなとは思っていて。少し前に『UMA水族館』という絵本を描いたんだけど、こういうこともUMAでやるかもね。UMAだったら人間じゃないし、伝えやすいかなっていう予感があるんで。

――商業っていう枠組みだと、マーケティング的にシェアボーイの形式では出しにくいってことだったんですね。

山田 商業誌の場合は編集の判断として投資に見合うかってことで決めるわけで。今の流れでいうと、このやり方、語り口はあってないということだね。もったいないとは思うけどね。

――もし商業誌で企画が通っていれば、当然作画も一般的な形になっていたと思うのですが、今回ホームページで発表することになり作画も色を塗っていく形に変更したんですよね? これは商業という枠組みを外した時に「そういうことならこれをやりたい」という感じだったんですか?

 

山田 そうそう。オールカラーは雑誌じゃ無理だし、とにかくジャンセンみたいにやりたいってのもあったのでせっかくネットでやるんだったら、できることやっちゃおうかなって思ったんだよね。
鉛筆描きに色を乗っけるっていうやり方はあんまり誰もやってないよね。ほとんどやってないんじゃないかな。

銀河鉄道999なわけ。エロバーションのね。

――今回のシェアボーイをHPに掲載するというのは「やりたいことがやれる」ということのほかに、何らかの形で世間に問いたいというか、送りたいメッセージみたいなものがあったんでしょうか。

 

山田 いろんなプロジェクトやって出してるうちの一つなんだけど、この方向もやっぱりちょっとやってみたいよね。面白いもんね。

――それと今の時代で言うと、男性側も女性側もシェアボーイのような踏み込んだ関係までなかなかいけないというふうに感じます。恋愛にしても付き合うまでいけないことがほとんどというか。恋愛を学びたくても、そもそも機会すらないですから。そういう意味でもシェアボーイってとても役に立つんじゃないかと思います。

 

山田 そうなんだよ。女に愛されたいのにね。女を知らないからっていうのもあって、遠くなってるみたいなところはあるんで。
だから主人公の眼を通じて、ある種の情報を受け取って欲しいというのは思ってるんだよね。それを説教で言うのはちょっと難しくなるから、女の子の口から柔らかく、エロく伝えるっていう形でできないかなって思ったんだ。まぁなんだろう、銀河鉄道999なわけ。エロバーションのね。

――興味深いと思ったのは、今までの山田さんの作品だとシェアボーイほどエロを押し出したことはありませんよね。ニコ生の放送(※山田玲司のヤングサンデー)でも「女の子のパンツは描きたくなかった」と言われてましたし。それがシェアボーイに至って振り切ったのは先生の中で何か心境の変化みたいなものがあったんでしょうか?

 

山田 そうだなぁ。例えば愛ちゃん……えっと、愛☆まどんなさんみたいな人と仕事してると、そういうことにこだわってるのがバカバカしくなるんだよね。だから愛ちゃんみたいに自分の欲望とかやりたいことにすごく忠実にやってる人を見て、ちょっと反省するところがあって。いい加減かっこつけてる場合じゃないなぁっていうのは思ってて。
だってそんなのどんな人でも描いてるわけで。なのに自分の漫画の時に描かないっていうのは気取ってるんだよね。なので、もっともっとできないかなって今は考えてるんだ。

考えられることは全部挑戦したらいいじゃないか

――現在シェアボーイは3話までネームができているそうですが、3話以降の構想みたいなものも既にあるんでしょうか?

 

山田 香港からハノイに行って、みたいな流れでいく予定ではいたし、新しいキャラクターもその時できていたよ。ただ、とりあえずちょっと3話まで上げて、あとはのんびり少しずつ描いてこうかなと思って。どういうスケジュールになってるかわからないんで。ただせっかく3話までできているのに載せないのもね。だからまずやろうかなって。

――今まで基本的には雑誌で連載という形で、山田さんお一人で漫画を描かれてきたと思うんですが、ここにきていろんな方とコラボしてすごく多方向に活動されてますよね。これらの活動については漫画家として何か変化があったのですか?

 

山田 実は昨日ね、矢寺君ていう『おにでか!』っていう漫画を描いている人がいてね。その人が僕に取材をしたいって言って、上野まで来てくれたんだけど。その人が何を聞きたいかっていうと「どうしたら売れるでしょうか」っていうことを聞きたいって。
それで僕の前に島本先生に会いに行ってるんだって。島本先生に売れる方法を聞いた後に俺のところに来るっていう流れがあって。それで会って「売れる、売れない」の話をしたんだけど、かつての業界とは今はもう違うし、かつての読者はもういないし、かつての漫画文化ではもうないし。だったら、これからどうしたらいいのかっていうのを考えられることは全部挑戦したらいいじゃないのってね。そういう話をしてたんだ。
だから今は雑誌にこだわらなくなったのもそれで。雑誌があまりにも行き詰まってるからね。実はこの十年くらいはこだわってたせいで損してた部分はあったなと思うんだよね。

――確かに漫画雑誌の黄金期が終わり、今の漫画家はそれぞれでやり方を模索しているのかもしれませんね。

 

山田 もう電車の中で漫画雑誌読んでる人いなくなっちゃったでしょ。

――ほとんどの乗客はスマホばかり見てますね。

 

山田 だったら電子の方をメインに行ったほうが伝えられるだろうなっていうのは当然の流れだろうね。

(インタビュー・編集 市川剛史)

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