『ファイトクラブ』はリスカ代行映画!?
自分を変えてくれる作品。覚醒コンテンツとしての『ファイトクラブ』
山田:
俺ずっと昔から思ってんだけど、世界には2種類のコンテンツがある。麻酔コンテンツと覚醒コンテンツ!
奥野:
ほうほう。
山田:
麻酔コンテンツっていうのは、苦しい毎日からの逃避のための都合のいい話。自分が知っている世界で自分が望んでいる展開。そしてちょっとだけ知らなかったことが入っているくらいのバランスがいいんですわ。女の子いっぱーい、みんな自分のこと大好きーみたいな。だけど女の子ってこんなことも言うんだ、ぐらいのがちょうどいい感じですよ。
奥野:
なるほどなるほど。
山田:
これでなんとかみんな生きていくんだよ。だから俺は否定してるわけじゃないの。この麻酔コンテンツっていうのを。だけどこれ、見ても自分は変わらないですから。コンテンツの中ですから。漫画の中、アニメの中では感情移入してたキャラクターがあんなにモテたのに。だけどアニメが終わったらいつもの自分、みたいな。もう繰り返しですわ。
で、これはべつにいいんだよ。消費・癒し・ガス抜きみたいな。爆発しちゃうからさ。だけどもう一個、覚醒コンテンツっていうのがあってさ。
奥野:
はい。
山田:
世界の見方を変えて、自分を変えてしまってくれる作品。
奥野:
なるほどなるほど。
山田:
覚醒させてくれちゃうわけ。「この価値観知らないなー」みたいな。「なんとなくそうかな
と思ってたんだけど、これだよ待ってたのは」みたいなやつ。何らかの自分を作ってた壁みたいなものをぶっ壊して、広くしてくれるんだよ。そしたら可能性の宝庫じゃん、次行けるじゃんって話なの。
さあ、(ファイトクラブのジャケットを掲げて)覚醒コンテンツ!
奥野:
あー、なるほどね。
山田:
まさにファイトクラブっていうのは「あんたが見てる現実ってどうなの?」みたいなことをこのタイラー・ダーデンがガンガンぶち込んでくるっていう作品なんだよ。
それは主人公の中にあった、本当は分かってたっていう事なんだよ。だけどお前はいないことにしてたっていうもう一人の俺。っていうことなのね。
奥野:
ほー。
山田:
やばいんすよ本当に。一番おっかないのは、麻酔のかかったまんま、なんとかやり過ごしてたら、爆発しないけどどうなるかっていう問題について、この作品ではちゃんと描いてんだよね。
で、主人公はね、麻酔のまんまどうなるかっていうと死んだように生きてるんだよね。 「だる~」って言いながら「死にて~」ってやつっすわ。
それで、ストレスっていうものは消費で解決。そしてお金がなくなる。働かなきゃいけない。っていう無限ループに入ってる。これは消費社会の中で中毒患者にさせられてるわけよ。(こういうこと)言うと(大人は)お前若いなあみたいなこと言いますよ。
「そんなの厨二じゃないっすか」っていう。「そんなこと言いますよね、そういう時期には」って。でもそれで終わらせていいのか!? 問題! 大事なとこ、ここ! 引くなよ!!(笑)
奥野:
いや引いてない引いてない(笑)そうかーと思って。
山田:
じゃあこれを厨二って片付けていくんだったら、この主人公みたいに生きていくのかって話でしょ。死んだように。働いて、欲しいもの買って、お金なくなって、働いて、って繰り返しで。それで何やってんの俺、生きてんの、死んでんの、訳分かんない、みたいな。それで眠れない。
これって子どもから言っている、死んだような大人じゃないですかっていうことですよね。
奥野:
はいはい。
山田:
それって、格好悪いですよね。楽しくないじゃないですか実際のところ。そんなこんなの自分が眠れなくなったのを、タイラー・ダーデンっていうのはいきなり現れて。
タイラー・ダーデンが主人公に向かって、喰らわす喰らわす。一発目の一撃が最高。IKEAの家具で完璧に揃えた彼の部屋を吹き飛ばす。行くとこなくなっちゃう。しょうがないからタイラーのとこに電話してくる。タイラーは「あぁ、来れば?」みたいな。「来てもいいけど、一発殴らせろ」「え、何言ってんだこいつ」みたいな感じで、殴らせる。そして主人公も殴る。で、ボッコボコになって血まみれになって、あっはっはって笑って。そこからファイトクラブが始まるわけですよ。
奥野:
なるほど。
山田:
これ何かっつーと、死んでるんだよもう、自分は。それをもう一人の自分(タイラー)が、「生きろ!」「生きてるか!」みたいな。これなんですよ、ファイトクラブって。
(公開当時のアメリカ人が)同じように消費社会でボーッとやって「次何か欲しいなー」みたいな、「iPhone新しいの出るんだ、どうしよっかなー」みたいな感じでボーッとして映画館行くじゃん。タイラー・ダーデンにボコボコにされる。この年の最も良かったキャラクターで第一位、タイラー・ダーデン。アメリカ人みんなIKEAでボーッとしてたから。
奥野:
あー。実際に後頭部殴られたんですね、アメリカ人。
山田:
っていう展開ですわ。これ大事なことじゃないの? ってことなの。
本編動画こちら↓
Written by
市川 剛史
どすこい喫茶ジュテーム