『CICADA』作画担当 漫画家バナーイ先生ロングインタビュー
漫画家山田玲司の最新コミックスCICADAの作画担当バナーイとはどんな人物か。
CICADA連載前夜から最新刊までを赤裸々に語るバナーイクロニクル。
バナーイBANAI
漫画家
久世孝臣takaomi kuze
山田玲司のヤングサンデー MC
結局仕事やってても漫画描いてしまうし「やめようかな」って思っても、やっぱり漫画描きたくなるんで。
今でも迷ったら読み返す漫画ってありますか?
そのけちょんけちょんにやられたエピソードをできる範囲で聞いていいですか?
そしたら案の定同じような事言われたんで。
「じゃあ今の自分のレベルはこんなもんなんやなぁ」って思って。
東京とか行ってるよりは和歌山で仕事しながらでもいいかなと。
(和歌山に戻ったあとは)作品がたまったら上京して持ち込みしてっていうのを繰り返して。
結局仕事やってても漫画描いてしまうし「やめようかな」って思っても、やっぱり漫画描きたくなるんで。
「なんとか賞」とかあったら応募したくなるんで、ずっと続けてました。
弱々しい、どうしようもない、そんなセリフを主人公が言っているっていうのは僕にとっては新鮮で。
デビューの定義が分かんないんですけど。
『CICADA』のに2〜3ヶ月前に。
それでついに『CICADA』に向かうわけですけど。
デビュー作が原作付きでやってたんですけど、本当は連載になるかもっていう話だったんです。
けど、『マガジンエッジ』さんの中ではコラム読み切りだけで終わりにしようっていう話になって。
連載だと思ってたのに、なくなってしまって。
どうしようかなって思ってる時にTwitter見てたら「SFで恋愛でメカの漫画家を募集してます」という山田先生のツイートを見て。
【漫画絵師募集のお知らせ】
山田玲司がネームを描く漫画の、絵を描く漫画家を募集します。
月刊スピリッツで連載確約!少し変わった近未来SFで、恋愛やメカも出ます
・応募方法
自身の描いた絵、刷り出し、単行本など、
画力がわかるものを、メールか郵送でお送りください!— 山田玲司 (@yamadareiji) 2016年2月9日
山田玲司のツイート
その後に『CICADA』のコンペが始まる。
完成原稿を一次審査で送ったんですよ。
『マガジンエッジ』の読み切りになったものを。
それで、一週間ぐらいしても連絡なかったんで、これ落ちたなと。
思ってたらメールが来て二次審査に進みました。
そのページっていうのが衝撃で。
レムが「寂しくて死にそうだ」って言うシーン。
1話だったんですけど。
その弱々しい、どうしようもない、そんなセリフを主人公が言っているっていうのは僕にとっては新鮮で。
ちょっと衝撃受けて。「これは是非ともやってみたいな」っていう思いで作画に挑んだんです。
そのまま山田先生の雰囲気で書くのもいいかなって思ったんですけれど、メカっていう部分があったのでここはやらなあかんと。
ちなみにバナーイ先生はメカ、 SF、 恋愛やったら、やっぱメカが一番得意なんですか?
熊谷さん(担当編集)に「バナーイさんの雰囲気が出るから。メカとか人っていうんじゃなくて、世界の熱量が伝わるから、それを大事にしてほしい」と言われて。まだよくわかってないんですけど(笑)
全然連絡来えへんので「これまた落ちたなー」と思ってたら連絡が来て。
「まだやるんか」と(笑)
本当にこれが最後やなと思ったんで、じゃあ今度はアクションシーンで描いて。
インディゴのアクションシーンがあったんですけど、僕おじさん書くのが好きなんで、ここはストロングポイントになるかなと。
(火炎放射器を)カチャってやるとこ?
三次審査ではどれぐらい待たされたんですか?
「せめて合否を教えてください」ってメールして、それでもうんともすんともなかったんで。
今まで落ちてきたことがほとんどやったんで、「また落ちたんやろなぁ」と思って取って。そしたら受かってたんで自分で拍子抜けで。
その時まだ実感が無くて「受かったんか〜」ぐらいの。
もし20年やれてたらちょっとイキろうかなと思います(笑)
上野で待ち合わせしてて、山田先生が先にカフェに着いてると。
僕は編集さんに引き連れられてカフェに入ったらなんかもうオーラがあるんですよね 。
やっぱりさすがにオーラがあって、ちょっと圧倒された。
僕が初めて会った漫画家って山田先生だと思うので。
山田先生みたいなオーラを持ってる人はそんないないですよ。
「俺全然考えてへんのやなー」って思うぐらい量と勢いがあるじゃないですか。
ここまで考えてされてるからこそ生き抜かれてるし、ずっと応援される方になってるんだなって。
作品と本人が比例しない漫画家さんが結構いると思うので。
漫画家として大事にしてる事ってありますか?
『CICADA』の19-20話ぐらいは山田先生の遺言みたいな会心のネームやと思ってるんです。
「世界は変えられやんけど、大事な人だけは救ったよ」って。
映画とかアニメとかでも、最初のシーンに戻ってくる事って結構あるじゃないですか。
でもこれ漫画やからもう1回書くじゃないですか。どうだったんですか?あそこ戻ってきたーみたいな。
「それでも好きって言ってほしいの?」のあとにロルカがレムの手を握るっていうシーンがあって。
これが入ることによって1巻とは違うっていう僕の中のイメージがあって 。
山田先生の描いてる心境が1巻の時の『CICADA』と、最終話の『CICADA』が違うんやなーって感じたんで。
たぶん前向きな終わりになってるなと。
どうしようもなくてこういう状況になった。それでも多分ロルカは前に向かおうとしてる。
だからこそレムの手を握って「全部好きよ」っていうセリフを言うと僕は思ったんです。
でも僕の中では「山田先生はきっと捉え方が変わったんだろうな」って思って、「じゃあ僕はそういう絵を描こう」と思ってこういう「全部好きよ」になりました。
編集さんに相談して「これでいいですか?」っていう話をしたら「僕もこれでいいと思います」っていう判断が出たので。
だからこそ自分はこの絵を選びましたし、違う受け取り方を読者の方もしてくれるのかなと思ってやってみました。
それが僕が山田先生と見せてもらいたいなって。
ええこと言うやん。ちょっと泣きそう。
こんなに何もできやん、なんかウジウジしてる…
どうしても僕が読んでた漫画っていうのは王道で、主人公が成長して「どう壁を乗り越えていくか」っていうのがあるんですけど。
レムは違って、進んでるのか進んでないのかよくわからないような、でも時々ハッとするような顔を見せたり、「なんかやってやろう」っていう、そういう思いがある。
レムがやっぱり自分の投影じゃないですけど思い入れがあります。
『エヴァンゲリオン』みたいな。
それ以外はあえてリアルにあるものからいろんなところを外してて。
銃器とかは結構ファンタジーにしてます。世界観をふわっとした感じにしたかったんです。銃器とかまでリアルにしてしまったら、人殺すシーンとかもあるんで結構生々しいかなと思って。
山田先生からも「あまり人殺すシーンをちゃんと描かないでほしい」っていうオーダーがあったので。
言ってごらんなさい。
もう髪飾りつけてるしなー…って。3話まで来てるしなーと思って。こっそり1つ外して、その次2つ外して。
そーっと戻しました(笑)
ただ、外したことによってみんなが「髪飾りをつけてほしい」っていう要望があったんですよね。「あれ可愛かったのに」って。じゃあもうその声を信じようと思って。
たぶん3巻のレムとロルカの逃避行が始まってからまた付け直してます。あそこから最終決戦に戻るっていうのが大体分かってたんで、やっぱつけやなあかんよなと。
弱々しいレムっていう意味で記号としてそばかすはつけてたんですけど、だんだんレムが5話6話7話といくに従って成長してて。じゃあもうそばかすいらんかなあと思って、外しだして。
最終話で「でもやっぱりレムはそばかすやな」って思って。ちょちょちょーってわからんようにまたつけだして(笑)
「きちんとしたそばかすやで」と。
それちょっと作画の人のいたずら心っていうのを楽しませていただきました。
後半になるにつれてだんだん良い感じに変わっていってると読んでるほうは思ってたんですが、その辺の手応えっていうのは描いてる本人としてはどういうふうに思っていたんですか?
そこから自分を貫くよりも読者の声を聞いた方がいいかなって考えて。山田先生からもちょっと見えにくいっていう話を聞いてたんで、変えてみようかなって思って変え始めたのが 5話〜8話とか。
線とかもだんだん減らしていってて、3巻ぐらいの時ですかね。そしたら逆に今度は「線が少な過ぎる」っていう意見が出てきて。前の方が良かったって。情熱みたいなものがなくなってきたって言われ始めて。
両方を納得させるのは難しいかもしれない。けど、僕はお金もらって仕事してるんで、せめて納得してもらえるものは作りたいなと思って試行錯誤して。
僕の中で20話が答えで、自分の描きたい絵っていうのはこの辺りかなっていうのが見え始めた。まだ全然見え始めた段階なんですけど、見え始めたところで終わってしまった。
また違う世界があったんかなぁとか。初めからある程度受け入れられる絵が描けたら良かったんかなぁって思ってるんですけど。
僕の絵って最近の流行りでは全然ないと思うので。逆に今風の絵師さんが描いたらどうなるんかなぁとか。
最後に、山田玲司への質問
バナーイ先生から山田玲司へ『普段聞けないけど聞きたかった質問』を預かったので、本人に聞いてみました。
例えば「和歌山で巨大ロボットを造る話」とか面白いかも。
自分の周りの実在の人物をモデルにして欲しいです。
和歌山が大阪と戦うとか、和歌山が東京と戦うとか、戦いは「ロボットコンテスト」とかの競技にしたらいいかも。
彼の武器はメカと和歌山だと思うので、それもありだと思います。
バナーイ先生ありがとうございました!
バナーイ
漫画家
漫画家
2016年より月刊!スピリッツにてCICADAの作画を担当(原作 山田玲司)。
和歌山在住のご当地漫画家として活躍中。
バナーイ先生からのコメント
「ヤンサンファミリーの皆様、応援ありがとうございました!」
Twitter @banaicicada
久世孝臣
山田玲司のヤングサンデー MC
演出家・詩人
創作集団ナズ・ラヴィ・エ主催。
http://kuzetakaomi.weebly.com/
主に舞台作品の演出・脚本、詩作を手がける。
場所や参加する人間の表現ジャンルを問わない境界線を超えた共同制作を得意とし、それぞれの良さを活かしつつ確固たる一つの世界を構築することに定評がある。 表現における言葉の可能性、言葉における意味の領域の拡張、自身が掲げる「身体性を持った言葉」を用いてイマジネーションの可能性を追求する。
Written by
播磨 貴文
いつも頑張っています。
市川 剛史
どすこい喫茶ジュテーム
ishino
Bros.Chu
小食、無言、人見知り
松田ひょっと斎
いろいろやらかすひょっと斎です^^v