【第140号】「エヴァンゲリオン」ではいられない理由
「エヴァンゲリオン」ではいられない理由
「自分を救ってくれた曲」ってのもあるけど、「自分を救ってくれたドラマ」ってのもある。
今週話題にしていたアメリカの大ヒットドラマ「フレンズ」は、僕にとってそんな「自分を救ってくれたドラマ」の1つです。
とはいえ、何しろ94年のドラマなものだから、今更そのドラマについて語るのは引けると思っていたけど、今回、我らが東村アキコが入院して居た時にこのドラマにハマっていたと聞いて、これは語れるチャンスだと思い、思いっきり「フレンズの回」がやれて幸せでした。
1994年と言えば「エヴァンゲリオン」登場の前の年です。
日本ではバブルが本格的に弾け、経済的大混乱の中、翌95年には「阪神大震災」と「オウム無差別テロ事件」が起こります。
それまでの「なんとかなるんじゃない?」みたいな雰囲気は消し飛び、「何か」を忘れようとせんばかりに「巨大ディスコ」で半裸の女達が派手な扇子を振りながら踊り狂っていた時代です。
表面的には浮かれている様に見えて、その実「大人も子供も」先の見えない時代に怯えていたのがこの時代です。
そんな頃に発表された「エヴァンゲリオン」には、80年代の「華やかで楽観的な空気」は無く「得体の知れない不安と焦燥」と「行き場のないリビドー」が画面を支配していました。
「エヴァンゲリオン」は、その時代の空気を見事に捉えたわけです。
エヴァンゲリオンを一言で言えば「孤立した人間達の孤独の叫び」でしょう。
大きなテーマは「親の問題」です。
若いキャラクター達は皆、「不完全な親」に、怒りと憎しみを抱えながら「愛を渇望」しています。
そして彼らは、そんな苦しみを誰とも共有することが出来ずに「1人で苦しむ」しかないのです。
当時も今も日本人の多くがこういう状況にいるので、この作品が大ヒットしたのも頷けます。
「ダメ親ばかりの悲しい国」とも言えますけど、言い方を変えれば、この国はまだ「親に対しての期待が残っている」とも言えるのです。
同時期のドラマ「フレンズ」でも、「どうしようもない親」は沢山出てくるし、娘を兄と比較して、否定しかしないモニカの母親は、今だと典型的な「毒親」と言われる母親でしょう。
育児放棄や自殺した親など、エヴァンゲリオン同等のキツい親を持ったキャラクターも出てきます。
しかし、エヴァンゲリオンと決定的に違うのは、フレンズのキャラクターは「孤立」していないのです。
「最悪な親」に泣かされているキャラクターの横で、それより遥かに悲惨な親を持ったキャラクターが笑って肩を叩いてくれたりするのが「フレンズの世界」なのです。
エヴァンゲリオンの監督の庵野秀明さんが、「エヴァの新作を作るのが辛い」と言っているらしい、と聞いた事があるけど、わかる気がします。
94年当時の庵野さんは、まだ「他者の苦しみ」に寄り添う余裕も「自分の苦しみ」を他者に打ち明ける余裕も、ましてや「それらの苦しみ」を笑い飛ばせる余裕なんかなかったのだと思うのです。
ところが、人生がある程度進んで行くと「他者」が見えてきたりします。
これは、自分を見て評価してくる「他者」のことではありません。
自分と同じか、もしくは自分より悲惨な「他者」がいる事を認められるようになっていくのです。
「辛いのは自分だけじゃない」という発見は、人生を大きく変えてくれるのです。
そして、これがわかると、親もまた「ただの人間」だと思えてきます。
フレンズのキャラクター達は、まず「友人」が自分と同じ「辛さ」を持っている事に気づきます。
そして少しづつ「親の人生(辛さ)」を理解していくのです。
あらゆる人間が、それぞれ違っていて、あらゆる人間が、自分と同じ「辛さ」を抱えて生きているのが「現実の世界」です。
何が「共通の辛さか?」と言うと、それは仏教が説いている「生老病死」であり「四苦八苦」です。
どんなイケメンにも「老い」は来るし、お金持ちにも「死」は来ます。
誰だって「嫌な奴」に出会うし、「大好きな人と別れる日」も来るのです。
そして、基本的に人間は「思うようにはならない人生」を生きているわけです。
そんな「うんざりする現実」をやり過ごすためには「1人で叫んでいてもダメ」なのです。
うんざりする夜に「すぐに行くよ」と、言ってくれる「誰か」
自分より悲惨な状況なのに、笑って肩を叩いてくれる「誰か」
それは「最高の救い」です。
そんな友人を作るのは、難しいようですけど、実はそうでもないのです。
誰かが困っている時に「すぐに行くよ」と言える人になればいいだけなのです。
何も言わずに肩を叩いてあげるだけでいいのです。
「どんな人でも、自分と同じ様な、辛さを抱えている」ってことを理解すれば、「フレンズの世界」はそんなに遠くはないのです。
山田玲司
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平野建太
Written by
市川 剛史
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