コラム 2017.09.25

【第130号】「危ないコラム」

山田玲司のヤングサンデー 第130号 2017/4/10

「危ないコラム」
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まあ僕も人並に色々あったんで。
何だかんだ色々考えた結果、「誰も傷つけないで生きる」って決めて生きているんですけどね。
それでも「このやろう、ふざけたこと言いやがって・・」なんて、思うこともまだまだあるわけです。
その殆どが「構造的問題」が生んだ根の深い話なので、やたらと感情的になるのも不毛だし、怒ってもどうにかなるものではないことばかりです。
なので、基本的に誰かを批判しないことに決めているんだけど、先週の時事の回で、つい「これはどうかと思う」みたいな事を言ってしまいましたね。
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〜スカッとすればそれでいいのか?問題〜
今回僕が批判したのは、どこにでもある「恋愛のハウツー記事」のことでした。
この記事もまあ「他愛のない話」だし、それで幸せになる人もいるかもしれないし、それを書いたライターの人にも何の恨みもないんですけど、そのライターやその記事の話というより、「そういう系の記事」について腹が立ったんですよね。
その記事は「結婚相手にふさわしいかどうか、を計るために3つのことをするべき」という記事でした。
もう時間もないし、少しでも早く結婚相手を見つけたいと思っている人のための記事です。
そのライターさんは「最初のデートでわざと遅刻して、友人の不倫の話をして、ゲテモノ料理を食べさせに行って、その反応でその男が自分の結婚相手にふさわしいかどうかを判断せよ」と言っていまして。
単純な話「トラブルを起して相手をテストしよう」ってことなんで、他愛ない事かもしれないけど、問題は「こういう風に他者を自分にとって有益かどうか?」で見ている「生き方」の方だと思うんです。
「あの人はここがダメ」「この人はこんな事言うからダメ」なんて、人にダメ出しばかりして生きている人が、誰かと協力関係を築くのってのは、そもそも大変な話でしょう。
例えばこのテストを女の人がされたらどんな気分になるでしょう?
デートにわざと遅れて、その反応で「その女と付き合うべきか」を判断する男です。
すべてのテストをクリアしたから君と結婚するよ、なんて事を言う男を「愛する」なんてできませんよね。(よっぽどの人でないと)
まあ、それはいいとして、問題はそういう「生き方」を勧めている記事の話です。
「そんな事言う男はダメ!すぐに別れなよ!」なんてノリは、聞いている方に「選択肢はこっちにあるんだから、これでいいのよ!」とか「もうこれ以上、男たち(他者)の言いなりになんかならない!」みたいな「マッチョなノリ」があると思うんです。
「痛快な答え」という、いわば「商品」です。
「あんなバカな男、こっちから捨ててしまいなさい!」なんて、その場限りの「スッキリさせてくれる」炭酸飲料みたいなものです。
でもね、人生はもっともっと複雑で、その時の「わずかな情報」だけではその人のことなんて分からないものなんだよね。
映画やドラマが描いているのは、まさに「そのこと」で、始めは「嫌な感じ」だったキャラクターが、回を追うごとに「この人いいなあ」って思えるようになっていくし、様々なエピソードを経て「変化」もしていくわけです。
「そういうのを待ってる時間なんかない」という人のための「答え」が、この手の記事の売りなのだと思うけど、そんな炭酸飲料は「その場」だけのもので、そんなのを真に受けてしまったらどうなるかと言えば「たられば地獄」でしかないでしょう。
「たられば」では「あいつのあれがダメ、これがダメ」と、ダメ出しを繰り返しているうちに、自分に「選択権」がなくなっていく流れが描かれていますけど、実はこれって「加齢の問題」ではなくて、そういう「生き方」が生み出すのだと思うのです。
〜「安易な答え」という商品〜
広告の世界の定番で「大衆を不安にさせて、解決方法を提示する」ってのがあります。
「臭いと嫌われて人生終わりです!」と煽って「この薬で解決!」なんて買わせるヤツです。
不安にさせるけど、答えはある。
心は不安や不満で一杯だけど、自分では解決方法が浮かばない(考えられない)人に効果抜群の広告メソッドで、最近はそんな広告ばかりですよね。
スマホ時代になって、やたらと「〇〇の記事」を目にすることは増えたけど、この内容も人気があるものは基本的に「わかりやすい解決方法」がのっている。
前出の「結婚相手探しの方法」もまさにこれです。
読み手は、「安直な答え」に飢えていて、その答えが「今の自分の気分」に合うかどうかを判断します。
ネットの記事やまとめサイトが「悲報www」ばかりになるのは、読み手の気分が「人の不幸」を望んでいるからで、そこで望まれる「答え」は初めから「こいつ今最低だぞ、笑ってやろうぜ」というものだから当然なんだよね。
そんなわけで、不満ばかりを溜め込んだ人に有効な「答え」の1つが、「あいつらが悪い」という、これまた安直な答えです。
例えばそれは「どこかの国の人たち」だったり、「かつて人気のあったタレント」だったり、「男たち」とか「リア充」とか、なんでもアリです。
「そうだ!そうだ!」と、盛り上がれればそれでいいのです。
〜来るべき世界〜
また治虫の話になりますけどね。
その昔、手塚先生が描いた作品に「来るべき世界」という漫画があります。
あまりに昔で細部は思い出せないんだけど、その漫画で印象的なシーンが今も頭に残っているのです。
それは、地球の危機に人類を救済しようとして、「博士たち」が、必死に作ったロケットが、人類の存続を賭けて今まさに発射しようとする時のシーンです。
そこに集まった人たちの中の誰かが言います「あいつらだけが助かろうとしているぞ!」
「そんな勝手は許さないぞ!」なんてデタラメを言うのです。
すると、周りの人達も、その根拠のない言い分に同調して「そうだそうだ!奴らを許すな!」と言って、最終的にはロケットを破壊してしまうのです。
この話は僕の中に深く残っているので、何度も書いてしまってるんだけど、これって大事な事が描かれているエピソードです。
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多くの事に「痛快な答え」はありません。
悪人に見えても、その人が本当の「悪」であるかはわからないものです。
「ダメ」に見える人でも、その人が本当に「ダメ」であるかどうかはわからないものなのです。
ここ数十年、複雑な諸問題について「複雑なまま」受け入れることができず、自分にとって楽な「安直な答え」を盲信してしまう人があまりに多い傾向を感じます。
こういうのは避けたいものだけど、経済的かつ精神的な余裕が失われていく時代には、こういう「危険」がついてまわるものです。
「そんな事言われても、考えるのは面倒くさい」という気分もわかるけど、「考える」ってのはいいものです。
「考え過ぎ」にも気をつけながら、「あの記事はああ言ってるけど、そうでもないと思うな」くらいの「自分」は持っておきたいものです。
そんなわけで、今週も情報の海の中、人生を楽しくサーフして下さいね。
(写真は僕のお花見です)

山田玲司

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企画編集:山田玲司
保田壮一
発  行:株式会社タチワニ
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