【第185号】日本をこんなに「エロく」したのは誰だ?
日本をこんなに「エロく」したのは誰だ?
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おことわり:このコラムは、ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で配信されているメルマガを全文転載してお送りしています。転載期日が2018年4月下旬以降の号は、テキストのみを抜粋・転載しております。
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トークイベントのテーマは「エロコンテンツ対決」だった。
ヤンサンの兄妹番組「マクガイヤーチャンネル」の Dr.マクガイヤーとの「対決シリーズ」も今回で4回目だ。
ドクターも僕も、「普通の人にはわかってもらいないけど、ものすごく好きなもの」が沢山ある。
ドクターは生物オタクで、本物の科学者で、漫画好きで、何でもかんでもやたらと詳しい。
90年代のラブコメだのエロコメだのも好きだと言っている。
僕はと言えば、生物オタクで、科学好きの恐竜少年で、90年代のラブコメ漫画家だ。
人がついて来られない事ばかり考えているのも同じで、先週までは「戊辰戦争が与えた文学への影響」に夢中だったけど、今週は再び「ヒッグス粒子」と「松本隆」について考えている。
そんな自分にとって、ドクターは「説明不要で何でも話せる」という最高の存在だ。
トークバトルは、1回目の「マイナー生物バトル」から「手塚治虫マイナー作品対決」「エロい生物バトル」と来て、今回は「エロいシリーズ」の2回目という企画でした。
なぜエロをやるかと言えば、とにかく今のネットは「エロ」に厳しくて、乳首の「絵」だけでペナルティをくらうからだ。
画像の引用に関しても、漫画家本人が承諾しても出版の許可が面倒だったり、ネットではやれない事が多い。
そんなこんなで、オフラインの「トークライブ」という「場所」にエロの自由を求めた、というわけです。
僕もそこそこ攻めていましたが、とにかくドクターの攻め方は物凄くて、出演者なのに面白い。なので、僕はこのイベントが1つの楽しみになっている。
でも、来られない人もいるので、今回はそのイベントの内容の1部を書きます。
【エロの思索で驚く】
そんなわけで、今回は、前からやりたかった「健全そうに見えるコンテンツ」も「フロイト的」に見たらどうなるか?というのを本格的にやってみることにした。
精神医療の巨人であるフロイトは、何でもかんでも「性欲のせいにする」とか言われる学者さんだ。
本当のところ、そんなに単純には言ってないと思うけど、まあ「そんなふうに」言われている。
面白がって「ナウシカ」や「千と千尋」「キャプテンハーロック」なんかの「フロイト的分析」をしていたのだけど、そもそも「創造行為」は「性的行為」なわけで、やってみると面白いように「物語」が「性的考察」にハマる。
この話はかなり前にヤンサンで少し話したと思うけど、それを本気でやろうとしたわけです。
ちなみに、これがその時の解説メモの1部です。
〜メモ〜
2「無意識S○○の王(その1)松本零士」編
ヤマトの構造 壮大な「最後のS○○」の救済、というイニシエーション。
金髪美女ロシア人 敵は隣国の男でドイツ人イメージに含まれる敗戦国の「歪み」
「ハーロック」のアルカディア号の「男根イメージ」
敵「マゾーン」の戦艦は大量の「花のイメージ」「女王はラフレシア」
男1人で女の群れに突っ込むという構造
999の「女とめぐる旅」卵子への旅 「永遠の命」を求める「精子」である鉄郎
「有尾人の夢」
睡眠薬で「夢が見られない決まり」を拒絶するために、嫌いな男と寝る女の話
「夢」が「現実の性行為」より価値がある、という価値観
薄い布1枚の女
夢の中の○○○を可視化した漫画家 夢は必要 シュルレアリスト
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まあこんな感じだったわけです。
他にも「石ノ森章太郎作品における「男と男」の愛の世界」とか、最後には「団鬼六の認めた縄師」の話までやったんだけど、その過程で驚いたことがいくつかあった。
【エロい文豪の中に感じるもの】
僕はそれほど小説を読んできたわけではない。
なので、本格的に文學に向き合ってきた人にはとてもかなわないのだけど、「エロ」と聞くと思い出すものに「戦前戦後の文學」にあった「何か」だったりする。
かなり前に読んだ小説なのに、どうしても忘れられない「情景」みたいなものがある。
そしてそれが中々に色っぽいのだ。
今回「文豪マゾ5」とかもやったのだけど、
とにかく取り上げたかったのが「川端康成」だった。
【伊豆の踊子】
おそらく多くの人が指摘しているとは思うけど、川端康成の「伊豆の踊子」は「ラブコメ漫画」のルーツの1つだと思う。
心を病んで伊豆の旅に来た学生と、道中たまたま出会った「旅の一座」と、その中にいた若い「踊り子」との束の間の物語。
そこで仲良くなった踊り子が、今夜「お座敷」に出ると聞いた主人公の学生は、彼女がお客と一夜を共にするのでは、と気が気でならない。
そんな可愛い話が「伊豆の踊子」だ。
そこには「気になる女の子に純潔でいて欲しい」という男たちの可愛くも悲しい「願望」が描かれる。
それは今の「アイドルに対する気持ち」でもあり、男の根源的な「願い」でもある。
そして、その翌朝の描写が素晴らしい。
〜以下引用〜
「ほの暗い湯殿(ゆどの)の奥から、突然裸の女が走り出して来たかと思うと、
脱衣場のとっぱなに川岸へ飛びおりそうな格好で立ち、
両手をいっぱいに伸して何か叫んでいる。手拭いもない真っ裸だ。
それが踊り子だった。
若桐(わかぎり)のように足のよく伸びた白い裸身を眺めて、私は心に清水を感じ、
ほうっと深い息を吐いてから、ことこと笑った。
子供なんだ。
私たちを見つけた喜びでまっ裸のまま日の光の中に飛び出し、
爪先きで背いっぱいに伸び上がるほどに子供なんだ。
私は朗らかな喜びでことこと笑い続けた。頭が拭われたように澄んで来た。
微笑がいつまでもとまらなかった。」
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「どう?これ色々な意味でエロいよね?」と言うつもりで、この文を朗読したのだけど、声に出してこの文を読んでみて、文章の美しさと、得も言われぬ「透明感」を感じて驚いてしまった。
会場にいた人の中にも「エロいけど、それ以上の何かを感じる」と思った人がいたのじゃないかと思う。
そして、その後に紹介した「眠れる美女」の話。
これもまた有名な「ヤバい川端小説」だ。
「性的な機能を失った老人が、薬で眠る若い女と寝る」という秘密クラブの話なのだ。
女は裸で布団に入っていて、老人は彼女を愛でるだけなのだ。
このエロさも文學の世界ではお馴染みなのだけど、やはりその「表現力」がすごい。
〜以下引用〜
江口は娘にふと乳の匂いを感じ、そこから過去に関係した女たちのことを鮮明に思い出してしまい、すっかり目が冴えてしまったため、枕元に置かれていた普段は飲まない睡眠薬を一錠飲んだ。
するとひどく怖い夢を見てしまったので、残りの一錠も飲むと、深い眠りに落ちた。そして朝目覚めると…。
老人は夜半の悪夢なども忘れて、娘が可愛くてしかたがないようになると、自分がこの娘から可愛がられているような幼ささえ心に流れた。
娘の胸をさぐって、そっと掌のなかにいれた。それは江口をみごもる前の江口の母の乳房であるかのような、ふしぎな触感がひらめいた。
老人は手をひっこめたが、その触感は腕から肩までつらぬいた。
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うーーーん。
なんという美しい表現だろう。
そしてなんと「悲しい」のだろう。
「なんとか賞」だの「売上何万部」だのには興味はないけど、川端康成という人はやっぱり「すごい」と感じてしまう。
何だかんだと「エロコンテンツ」を彷徨って感じたのは、人間はそれほど変わっていないという事と、「美」の救済が時を超えることだった。
ついつい「最新の何か」に意識が行ってしまいがちだけど、まだまだ面白いものは溢れているものです。
山田玲司
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平野建太
Written by
ナオキ
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