コラム 2017.08.08
【第83号】「快楽」の途切れない生き方とは?
山田玲司のヤングサンデー 第83号 2016/5/9
「快楽」の途切れない生き方とは?
「快楽」の途切れない生き方とは?
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今回のニコ生は、3人の若手人気若手漫画家が僕と一緒に新作のネームを作る、というものでした。
そんなものいくらプロが3人集まっても簡単にはいかないのはわかっていたので、公式放送の時間帯には「俺たち漫画家が漫画雑誌を作るならどんな漫画家を選んでどんな漫画を描いてもらうか?」なんて、上から目線の企画を入れてみました。
まあね。これなら確実に盛り上がりますからね。
で、案の定前半はいい感じに盛り上がって、後半は苦悩の時間が続く、という放送になりました。
僕ら4人は2時間以上悩んで、不完全燃焼で未完のネームを残したけれど、実に気分が良く「またやろう」と言いながら帰りました。
僕はと言えば、あのメンツで出来る事のメイン能力をアッコに見事に封じ込まれて、予定通りに完成しなかったのに、最高の気分でした。
アッコは漫画家が得意なジャンルを振られると「いつものヤツ」でお茶を濁して逃げる、というパターンを知り尽くしていたので、それを封じて「本気の挑戦」をさせようとしてくれたわけです。
僕はヒーローものでない「東京の人間ドラマ」を描いてますけど、若手3人はまったくの初体験です。
苦しまないわけがない。
ところがこの3人はやっぱり違う。
何が違うかと言えば、彼らはいくつもの壁を超えてきた「諦めなかった者達」なのです。
文句ばかり言うくせに、自分では何も産んでいない人とは違います。
案の定、彼らは何度も「この先どうしよう」なんて止まっても、誰も諦めません。
途中からは、ふざける気マンマンだったロビンソンが本気を出してきます。
だろめおんは躊躇なくアイデアを出しまくります。
ONEはドラマの本質に入り込み、誠実にそれを形にしようとしてきます。
何度かここは俺が主導で進めてしまおうかな、という誘惑に駆られたけど、ここはこの3人が作る「磁場」に任せようと思って、僕はなるべく自分主導での牽引はしないようにしていました。
せめてもの土台に序盤のネームが5ページまでしか行かなったけど、この試みはなかなか苦しくて、なかなかの「快楽」を味わえる体験でした。
きっと僕ら4人の漫画家は業の深い「創造の快楽中毒」なのだと思う。
一見「消費者は楽しくで、生産者は苦しい」という感じに見えますけど、そうではないのはわかってくれたんではないでしょうかね。
前半にやってた「選ぶ側(読者側)」は楽だけど、本当に面白いのは「選ばれる側(作り手側)」だというのが伝わった人もいたのではないでしょうか。
ちなみにこの「創造の快楽」を簡単に味わう方法があります。
ぬいぐるみでも自転車でもいいから、お気に入りのモノに「特別な名前」をつけてあげると、その瞬間「モノ」には「魂」が宿り、「物語」が生まれるのです。
人間、生まれたからには「快楽」を味わい続けて生きていたいものです。
でもそれには、どうしても「そこに至る苦しい時間」がつきものです。
「そんなものはなるべくしたくない」というのはわかります。
世の中にはかつて学校の体育の授業でやらされた「うさぎ跳び」や「組み体操」のような「無駄な苦しみ」が溢れてますからね。
でも漫画が大好きで、自分も漫画を描きたい、と思った人にとっては、漫画を生むための苦しみは「無駄な苦しみ」ではないんですよね。
キャラを作り、物語を作り、1コマ描き、1ページ描き、完成させる、という面倒な積み重ねを何度もする。
その度に「自分の知らなかった自分の世界」を発見し、喜びを味わってきたわけで、それは「苦痛込みの快楽人生」です。
そんな事は当たり前じゃないか、といえば、その通りですけどね。
あまりに「無意味な努力」を強いられてきた日本人は、努力の価値を見失ってしまっているのだけど、正しい努力は「快楽」に繋がります。
それが「他者のため」になると、それは高級な(高貴な)快楽になります。
苦しいことを避けて「いつものように生きる」のもできるけど、それは自分自身に何の発見もない、退屈な「死ぬまでの時間」になるだけなんですよね。
何より「私ってすごい」と思えないのはつまらない。
苦手だけど、しぶとく粘って何かを達成したら、それがどんなに些細な事であっても「私ってすごい」と思える。
これはかなり大事な人生のコツだと思う。
何もハードな漫画家生活に入って世界制覇しなくても、ウクレレが少し弾けるようになったり、何駅が前で電車を降りて歩いて帰宅するだけでもいいのだ。
そんなわけで、連休を満喫した人もそうでもなかった人も、無事に生きてて良かったね。
春を楽しんでね。
山田玲司
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企画編集:山田玲司
矢村秋歩
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発 行:株式会社タチワニ
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Written by
市川 剛史
どすこい喫茶ジュテーム