【第168号】「負けない人」とは?
「負けない人」とは?
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おことわり:このコラムは、ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で配信されているメルマガを全文転載してお送りしています。転載期日が2018年4月下旬以降の号は、テキストのみを抜粋・転載しております。
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去年「いいなあ」と思った事の1つに「アストロズの奇跡」というのがあった。
年末のドキュメンタリーにまとめられていたので、知っている人も多いかとは思うけど、去年メジャーリーグで全米優勝した「ヒューストン・アストロズ」が最強のチームになったのは「オタク集団の力」だったという話だ。
アストロズは予算の多くを「データ分析の専門家」「物理学者」「統計学者」などを雇うことに使い、徹底的なデータ分析から「勝てるチーム」を作っていったという。
雇われた「頭脳担当」の人達は、自分達を「オタク集団」と呼んでチームを支えたらしい。
その昔日本でも「IT野球」とかいうのがあったけれど、ここ数年その精度は格段に上がり、今までの「個人の才能」や「根性」に頼らない「具体的な方法」が随時更新されていく時代になっている。
アストロズのグラウンドでは、常に何台ものカメラが回っていて、打てなくなったバッターが「なぜ打てなくなったのか?」を分析してくれる。
そしてその解決法を科学的に(具体的に)出してくれるのだ。
主力選手のアルトゥーベが爆発的に打率を上げたのも、この「科学的対策」が大きかったという。
そんなやりかたを本格的に導入した最初の球団が、アストロズだったらしい。
去年のメルマガで書いた「ダルビッシュアストロズに敗けた」の理由もここにあったわけだ。
ワールドシリーズでダルビッシュと対戦する時、アストロズの「オタク集団」は、彼が今日どんなボールを投げてくるか試合前から分かっていたという。
しかも試合が始まってすぐに、ダルビッシュのスライダーがいつもの切れ味を欠いていることも見抜き、即座に対策を絞り込んだ。
つまり、この時ダルビッシュが「いつものヤツ」で勝負しようとした時点で「負け」は決まっていたわけだ。
そしてダルビッシュは「いつものヤツ」で勝負に行って、アストロズの予定通りに打たれた。
この話は考えさせられる。
人はついつい「過去に上手くいった方法」で勝負をしたくなる。
成功体験が自分を妨害する、という例のアレだ。
この場合、アストロズに勝とうとするなら「いつものヤツではない武器」を用意しなければならない。
そしてこの「武器」はそう簡単には手に入らない。
年齢を重ねて、ある程度の成功をしている人ほど難しい。
逆に言えば「失敗ばかり」で「成功に恵まれなかった」みたいな人の方が「別の武器」は作りやすい、とも言える。
「過去を忘れてしまいがちな人」もいい。
なので、僕はどうかと言うと「アストロズは怖いなあ」とか思ったけど、「別の武器」を出す事には自信がある。
去年出した「UMA水族館」も僕にとっては「いつものヤツ」ではなかった。
雑誌の漫画が上手くいかない事が新しい武器を生みやすくさせてくれているのだ。
色々あって、今年から漫画をデジタルで描くことになって、今まさに悪戦苦闘の真っ最中なんだけど、これもまた「新しい武器」を手に入れるための試行錯誤だ。
考えてみると「新しい武器」は「本来自分が持っていた可能性の1つ」でもある。
色々な理由をつけて「それはまだいいや」「まだその時期じゃない」なんて、やらずに逃げてきた選択肢だったりする。
デジタル作画はまさに「そういう類のモノ」だった。
そういえば絶望に効くクスリで取材した時に、ある年長の学者さんが「裏切り」が大事だと言っていた。
それは他者を傷つける事ではなく「あいつはああいうヤツだ」と思っている周囲の人間の固定観念を裏切る事なのかもしれない。
そしてそれは、自分が本当に望んでいる事に正直になると見つかる「宝」なのかもしれない。
長く漫画家をやっていると「あの人はこういう漫画家」だと決めつけられる。
仕事も「過去作の中の何か」を要求される。
それはありがたいし、僕もやりやすいけど、それでは「アストロズ」には負けるのだ。
それでは皆様、今年も一緒に新しい冒険を楽しみましょう。
山田玲司
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平野建太
Written by
ナオキ
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