【第194号】「ミミズ君」とは何か?
「ミミズ君」とは何か?
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おことわり:このコラムは、ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で配信されているメルマガを全文転載してお送りしています。転載期日が2018年4月下旬以降の号は、テキストのみを抜粋・転載しております。
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先週の放送の「ピングドラム解説」で、とうとう村上春樹作品の話になった。
村上春樹と言う人は圧倒的に売れる小説家で、しかも「ジャズ」だの「アメリカ文学」だの、やたらとオシャレなスノッブを効かせてくる芸風なもんだからアンチも多い。
主人公は(ほぼ確実に)世の中をバカにしていて、自分はそんな世界とは無関係でいようとする。
排他的で自己完結したその「主人公」は女やネコに逃げられるが、都合良くすぐに「次の女」が現れる。
そんな春樹が「鼻につく」のもわかる。
僕も春樹には「バカにされる」気がする。
ジャズもウイスキーもケルアックもよく知らないまま「パンクロック」なんかを聴いたりするからだ。
ところが僕は村上春樹が嫌いではない。
その理由が今回紹介した「かえるくん東京を救う」の中にある。
春樹ファンの間では当たり前の事だと思うけど、一般にはあまり語られないのが「村上春樹が何と闘っているのか?」という話だ。
彼が闘っているのは「女の気まぐれ」か?「謎の組織」か?「冷たい顔をしたスーツの男」か?
「出ていった彼女のワンピース」か?「穴」か?「あしか」か?
どれも違う。
村上春樹が長く闘っているのは「不条理」と「邪悪なるもの」の2つだと僕は思う。
その2つは各作品に様々な形で現れる。
その1つが「かえるくん東京を救う」の中に出てくる「ミミズ君」だ。
ミミズ君は地中の深くで、人々の「憎しみ」を吸い込み、巨大化し、思考する事すらなく、ものすごく「腹を立てている」という。
そして東京で15万人もの人の命を奪う大地震を起こそうとしているというのだ。
そんな「ミミズ君」をかえるくんはやっつけて東京を救うのだ。
今読み直してもこのメタファーは冴えてる。
どんなに表面を繕っても「地下」には人々の「憎しみ」が溜まっていく。
やがて「それ」は地上の人々に大きな暴力となって襲いかかる。
「今の日本そのもの」を童話的表現で見事に描いていると思う。
「それ」は時に「地震」となり、時に「カルト教団のテロ」となる。
村上春樹は、鼻につくスノッブを効かせ、排他的なスタンスを取りつつ、その大きな「悲劇」を避けるためには「普段文句も言わず誰かのために生きている普通の人の勇気と正義」が必要だと言うのだ。
「普通の人の勇気と正義」
どうにもこの「正義」というのは危ないけれど、ここで彼が描いている「正義」とは、テロや戦争につながるようなものではなく、子供が「それって間違ってる」と言うようなものだと思う。
これを深く考えていると「普通の人」が「邪悪」を抱え過ぎている事に気づく。
何の仕事をしても「ある程度のズル」は常識で、これは酷いと思う様な「談合」や「水増し」や「ピンハネ」なんかが当たり前にある。
それらは「隠されている」わけではなくて、その被害に合っている人はそれを忘れない。
そんな憎しみが地下に溜まっていくのだ。
先週の放送は僕らにとって「本当に幸せな時間」だった。
でもその一方で西日本では最悪の水害が起こっている。
同じタイミングで国民の命に関わる法案が可決されていこうとしている。
テロ集団の犯人達はなぜかこのタイミングで死刑になったという。
「地下」ではどんな事が起きているのか?
ある程度予想はしていたけどやっぱり気が滅入る。
こんな時に何ができるか?
「普通の感覚で正しいこと」をする勇気を持つしかないだろう。
「自分たち」と「やつら」などという単純な区別はせず、「普通」に助け合うしかないのだ。
ヤンサンで出会えた沢山の人たちが西日本にいる。
みんなの事が心配だけど、ヤンサンを知らない人の無事も願う。
どうか、皆様ご無事で!
こんな時こそ僕らはヤンサンの「通常放送」をがんばります。
山田玲司
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平野建太
Written by
ナオキ
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