【第136号】無責任なリスが森を作る
無責任なリスが森を作る
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何度も思い出す「リスの話」がある。
かなり昔に聞いた話なのだけれど、リスの中には冬に備えて見つけた餌の木の実をあちこちに隠す習性があるらしくて。
同じ場所にせんぶの餌を隠しておくと、その場所に何かあった時に困るので、リスはくるみやドングリをあちこちに隠しておくわけだ。
つまり「リスクヘッジ」しているわけで、リスというのも中々やりおる。
ところがリスの中には、自分がどこに餌を隠したか忘れるものもいるらしい。
なんとも間抜けで可愛い話なんだけど、その「忘れた木の実」が発芽して、やがて大きな木になることもあるらしい。
つまり、リスの間抜けな失敗が木を増やし、森を作っている、とも言えるわけです。
僕はこの話が大好きで、自分も車の中に少しのお金を隠しておいて「僕のくるみ」とか言ってみる。
バカみたいだけど、駐車料金が微妙に足りない時なんかに、その「くるみ」は僕を救ってくれるのです。
とは言え、車の中の少しのお金は、後に巨額の資産なんかになる事はない。
でもこの「くるみの話」
数年前に寂聴さんに聞いた話にもつながっていて面白い。
寂聴さんは僕に「あなた映画監督になったらいいわよ」と、言ってくれたことがあります。
映画は僕の「密かな夢」の1つだったので、それはもう嬉しかったのだけれど、寂聴さんは「あたし無責任にそういうこと言うのよ」と言って笑った。
そして、そんなふうに「言ったこと」を忘れてしまうらしい。
でも、こんな事を言われた方は忘れられない。
寂聴さんは無責任に人に「あなたならできるわよ」なんて言いいまくっていて、そのまま忘れるらしいけど、その言葉は「言われた人の中」で育っていって、やがて「大木」に育つこともあると思う。
まさにこれ「くるみの話」だ。
そして、この「くるみ」
漫画とか、映画とか、音楽なんかも同じかもしれない。
作った(埋めた)本人は忘れてたり、死んでたりするけど、それを残された者にとっては「発芽の可能性のある木の実」だろう。
僕も手塚先生の「くるみ」を受け取った1人だ。
そして、そんなに大げさに言わなくても、誰かに言われた「君に似合うよ」とか「それ上手いね」とか「才能あるんじゃない?」なんて言葉もまた「大木になるかもしれないくるみ」だと思う。
それに気がついてからは、僕も無責任に「くるみ」を撒くことにしている。
何しろ尊敬する瀬戸内寂聴さんのやってることなのだから、そんなに罪なことじゃないだろう。
そんなわけで、僕自身もすっかり忘れたころに、くるみが育っているのに出会うことが増えてきた。
僕の漫画で仕事を決めた人も、誰かと結婚した人もいる。そんな人が「作品」や「子供」まで作ってたりする。
今回、再び無責任に「君ならできるさ」なんて、主題歌の募集をしている。
放送を観てくれた人ならおわかりでしょうけど、大木だらけだ。
もちろんそれは僕の言葉だけで育ったわけじゃなくて、沢山の「くるみ」がそうさせたのだけれど、そこはもう「森」だ。
そんなわけで、今後も「うっかり屋のリス」で行こうと思ってます。
僕に誉められた時があったら「本気で言ってるんですか?」なんて言わないで欲しい。
何しろ無責任なリスなもので。
では、皆の者、今週も森を作ろうではないか。
君ならできるさ。
山田玲司
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平野建太
Written by
市川 剛史
どすこい喫茶ジュテーム