コラム 2017.05.23
【第8号】バランスを崩した時に見えるものとは?
僕はやたらと「侍日本」とかいうノリが嫌いです。
侍の本質を考えた時「共感できる素敵な部分」もあるけど、「いさぎよく切腹」だの「プライドが傷ついたら相手(自分)を切る」とかいうノリについていけないのが正直な話です。
公のために生きる事が武士道ならそれには完全に賛成したいのですけど、政治家や実業家の中には武士道気取っているのに「本当の公」や「弱きもの」に対する配慮が感じられない人が多い。
つまりインチキな奴がやたらと「侍」を使うもんだから侍のイメージが悪くなってしまってるんですね。
そもそも自分に誇りを持っていて、内面の充実した人は威張りませんし、簡単にキレません。すぐに「もはやこれまで」と諦めて死んだりしません。「責任とって死ね」とも言いません。もしもそれが「侍」なら尊敬はできませんよね。
ところがそんな僕に「侍」の本当の素晴らしさを教えてくれる人がいます。
1人は俳優の榎木孝明さんです。
劇団四季のトップ俳優で、独立してからも俳優で大活躍。絵画、古武道、旅とマルチな活躍をしている2枚目俳優さんです。
彼は本当に気品が高くて一緒にいると自分まで高貴な存在に感じさせてもらえる方です。
もう1人は榎木さんの友人で、彼もまた古武道の達人です。
野本君という若い人で、彼に会った時すぐに「あ、これは友人になる人だ」と思いました。
そんな野本君が「山田さん、1度古武道体験しません?」と言ってくれたので、先日体験してきました。
とにかく「やれそうならやってみる」が僕が自分に課した決まりなのです。
野本君は僕と再会するまでに僕の漫画のほとんどを読んで準備しててくれました。
感動しました。僕の漫画は下手をすると70冊以上あるのです。
「相手に真摯に向き合う準備をする」これこそ侍です。
古武道体験は開始早々えらいことになりました。
指1本で何度も転ばされるのです。これは榎木さんや榎木さんの師匠にもされたのでけど10歳以上も若い野本君は容赦ありません。(多分容赦してくれてたのだろうけど)
とはいえ僕も4年もヨーガをしてきて(おそらく)下半身はましなので、気づくと必死に正座をして、膝と尾骶骨の3点を三角形にして構えてました。
すると彼は「いいですね」といいながら「でも3点にだけ力が入っていて三角形の辺の部分が空いてますね」と僕をコロンです。
「古武道は重心を腰に置くの?」と聞くと「そうでもないんです」と彼はガニ股に開いてしっかり地面に足をついた姿勢で「スッ」と腰から下だけ回転させるのです。
「つまりバランスですよね」と言って「自分の問題がわかるので、崩されてもいいんです」と続けた。
なるほど「バランスが崩された時は自分の問題がわかる時」だというわけだ。
こういう話は昔からさんざん聞いてきた。「柳のように」「折れずにしなる」みたいな話だ。
「この足だけでなんとかしてみせる」みたいな時、全身をしなやかに使って倒されるとひとたまりもない。「私にはこれしかない」みたいに1点だけに力が入った人はもろい。
「金さえあれば」とか「学歴だけでなんとか」とか「見た目だけでなんとか」みたいなのは、そもそもが「バランスを崩している」のだ。
そういった「今は受験のことだけ」とか「売上のことだけ」とか「技術のことだけ」なんていうのは、他の事を考えないでいいので一見「集中」できるようで上手くいきそうだけど、実は思考停止になるだけで、「だけ」で空いた脳には「美味しいもの」だの「エロ」だので埋まるものですよね。
僕は侍という者はそういう「だけ」の人たちだと思っていたけど、本当の侍は鳥の声も風の香りも切り捨てないのだと教わった気がしました。
メルマガ発行日 2014/11/17
Written by
市川 剛史
どすこい喫茶ジュテーム