コラム 2018.04.26

【第148号】「初音ミクの悲しみ」とは?

山田玲司のヤングサンデー 第148号 2017/8/14
「初音ミクの悲しみ」とは?

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おことわり:このコラムは、ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で配信されているメルマガを全文転載してお送りしています。転載期日が2018年4月下旬以降の号は、テキストのみを抜粋・転載しております。

 

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階段を上がるとそこには「初音ミク」が待っていた。

 

そこは「手塚治虫記念館」の2階。

僕とヤンサンの仲間達は手塚治虫記念館に来ていたのです。

しかも我らが手塚るみ子さんがわざわざ来てくれて、中を案内してくれるという超豪華な体験。

 

大人の修学旅行の気分でおかしいほどはしゃいでいる「おっくん、しみちゃん、久世」の3人をよそに、僕は久しぶりに感じる「手塚治虫の生々しいエネルギー」に圧倒されていた。

 

そもそも手塚治虫のやってきた仕事は、種類も量も凄まじく、どんなに大きな会場でも簡単に紹介し切れるようなものではない。

コラムや論文のようなものから、膨大な漫画、アニメ映像、絵本、実験的な絵画まであるのだ。

 

そんな「神の仕事」と「その人生」の紹介をわかりやすくダイジェストで見せてくれるのが手塚治虫記念館だ。

 

そんなわけで、僕の様な手塚治虫チルドレンは入館するやいなや円筒形のガラスケースに入った品々に釘付けになってしまって、進もうにも進めなくなる。

 

閉館後に入れてもらったので、他のお客さんには迷惑はかからないが、館長を含めスタッフの皆さんの帰宅時間を延ばしてしまってはいないか・・なんて思うのだが、何しろ目の前には伝説の「新宝島」や「ブラックジャックの生原稿」「手塚先生のベレー帽と眼鏡」まであるのだ。

 

るみ子さんは、はしゃぐ僕らを微笑ましく見ている。彼女は「私はファザコンです」と公言している人なので、「大好きなお父様」の仕事に夢中になっている僕らを見て、悪い気分にはならないと思うものの、僕らがあまりにも先に進まないので、さすがに申し訳なくなってくる。

 

そんなこんなで、圧倒的な手塚マジックを堪能して、ようやく僕らは階段を上がったのです。

 

そこで待っていたのが「初音ミク」さんです。

手塚作品と初音ミクのコラボ企画が展開中だったんですね。

 

「初音ミク」は若い世代では知らない人はほとんどいない存在で、ボーカロイドという「自分が作った曲を歌ってくれるソフト」の中で最も有名なキャラクターです。

 

架空の存在で、人間ではない。ロボットという感じではないものの「アトム」とは繋がっている感じがします。

 

なので、企画展を見ているとどうしても「アトムとの相違点」が気になる。

 

~アトムと初音ミクの違い~

 

まず言えるのは、アトムには「内面」があるという部分です。

アトムのルーツはディズニーの「ピノキオ」なので、それは当然です。

「普通の人間になりたい」という思いが、ピノキオにもアトムにも入っているわけです。

なので、アトムは「悩む」のです。この「人間ではないものの悩み」が後の漫画やアニメの大きなテーマの1つになっていきます。

そこには、戦争に負けてしまった国民に生まれた複雑な「差別感情」や、「自分とは何か?」という自己実現、自己発見のテーマも含まれます。

 

そもそも「人間ではないもの」をテーマにする時に現れるのは「人間とは何か?」という問いなのです。

 

一方「初音ミク」は、初めからユーザーの為の「ツール(道具)」として登場した存在です。

なので、内面は無く、その「内面の空白」をユーザーの「思い」が満たす、という設定です。

 

なので、ミクは「私のミク」「俺のミク」という、ボカロを使う人それぞれの「道具」であり「アイドル」になっているのです。

 

もしもアトムがミクに会ったら彼は戸惑うでしょう。

「君は誰なの?」

「あたしはミクよ」

「ミクは人間になりたい?」

「わからない」

 

なんていう会話になったかもしれません。

手塚作品であれば、こんな流れも想像できます。

 

「おかしいよミク、こんなの君の歌じゃない」

「あたしの歌?」

「そうだよ、君は利用されているんだ、本当に歌いたい歌が君にだってあるだろ?」

 

なんて、ロボットに自我の目覚めを促すかもしれません。

 

初音ミクというプロジェクトは、そもそも「自分の大好きなツールを擬人化する」というジャンルのものなので、アトムとは別のジャンルなんですけどね。

 

例えるなら、「自分のバイクに女の子の名前をつける」みたいな感じです。

 

「道具」と言えば、コントローラーで動く「鉄人28号」なんかはその仲間でしょう。

 

その先には「R2-D2」や、コブラの「レディ」みたいな、忠実なしもべでありつつ「自分を持っている」キャラもいます。

 

そんなこんなを考えていたら、少しミクが気の毒に感じてきました。

 

彼女は誰かに指示を与えられなければ何もできない存在だからです。

 

こうなるとこの問題は深くて興味深い。

 

ミクは「指示待ち人間」なのか?

そして「それ」は幸せなのか?

 

葛藤の先に「利他的な自死」を選んだアトムの「自我」はどうなのだ?

(大変だ。アトムとミクの漫画が描きたくなってきた)

 

テーマの落とし所について言うと、「自我」も「指示待ち」も「ほどほどに」というのが、今の僕の答えですけどね。

 

初音ミクは「僕の歌をアイドルに歌って欲しい」という、他者(ユーザー)の為に使命を全うしているので、その点では「アトムの生き様」とも通じるのかもしれませんね。

 

こうして考えていくと、またしても「自分の幸福とは、他者の幸福を生み出すこと」なんていう、

いつもの「幸福論」になってしまいました。

 

ところで、おがげ様で大阪ツアーは大成功でした。暖かく迎えてくれ本当にありがとうございました。

 

それでは今週も身体に気をつけて、夏を味わってくださいね!

 

山田玲司

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企画編集:山田玲司
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発  行:株式会社タチワニ
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