コラム 2018.04.27

【第149号】「心のブス」は倒せるか?

【第149号】「心のブス」は倒せるか?

山田玲司のヤングサンデー 第149号 2017/8/21
「心のブス」は倒せるか?

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おことわり:このコラムは、ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で配信されているメルマガを全文転載してお送りしています。転載期日が2018年4月下旬以降の号は、テキストのみを抜粋・転載しております。

 

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他人が羨ましい。

 

自分はこんなにがんばっているのに、報われるのはいつも他の誰か。

そんな誰かが憎たらしい。あんなやつ死ねばいいのに。

どうにかしてあいつが不幸にならないか・・・

 

「そんなことを考えるのは止めよう」なんて、頭では考えるけど、それが本当に止められるかどうか?といえば、そんなに簡単じゃない。

 

少女革命ウテナ」の黒バラ編で、「敵」になるのはそんな「人の気持ち」です。

 

どうしようもない「嫉妬」「妬み」「憎悪」「復讐心」みたいなものが「黒バラ」という象徴的な花になる、というのが「黒バラ編」なのです。

 

そんな「憎悪の象徴」の黒いバラを切り裂くのが、中盤のウテナの役目なんですねー。

 

ウテナによって「黒バラ」を散らされたキャラクターは、心理的に開放されて「まるで別人みたい」に明るくなる。

 

「心のブス」をやっつけるのが「ウテナ」!

 

それが「少女革命」!

 

面白いのは、それまでの「敵」は自分の外にあったのに。この時期のアニメから「敵」は「自分の中」にある、みたいな感じになってくることです。

 

夏目や太宰などの文豪が扱ってきた「私の敵は私自信なのです・・」みたいなテーマを「美少女変身アニメ」に持ち込んでいるのが「ウテナ」なんですねー。

 

確かに人を妬んでいても良い事なんかない。

 

周りは敵ばかりになるし、とにかくその「心の醜さ」が顔に出てしまう。

 

「それ」をエンジンにしたらいい、なんてのが落とし所だと思うし、そもそも「人と自分を比べる」のが無意味だっていうのも永遠の真理でしょう。

 

でもそれが難しい。

 

人間ってのはそもそも「そういうもの」だからです。

 

興味深いのは、その「心のブス」を倒すウテナという「少女の力」は「永遠を求めるあの日の思い出」だという点です。

ウテナは「いつかバラの王子様が迎えに来てくれる」という「夢」を力にして(心の剣を武器にして)戦う少女なのです。

 

「おいおい、なんて頭がお花畑なんだ」なんて笑ってはいけません。

彼女の設定は14歳なので、そこは「普通のこと」で、男も14歳くらいの時は同じ様に「僕にもいつか美しいお姫様が・・」なんて思っているのが普通ですからね。

 

そう考えると、年をとるごとに芽生えてしまう「醜い心」と「かつての美しき夢」が《象徴的に》闘う、という設定は、まるで「思春期の心の戦場」を表現しているようで面白い。

 

そして、その「醜い現実」の中に「美しさ」や「優しさ」を見出し、「非現実的な子供の夢」の中にも、何らかの「真理」や「可能性」を見出すこともできるわけです。

 

そもそも「空を飛びたい」とか「手のひらサイズのコンピューターを作りたい」なんていう夢も「いつか王子さまが・・」みたいな子供の妄想と同じ様なものですからね。

 

そして「王子さまを待っているだけの姫」に飽き足らず「自分が王子さまになってしまう」というウテナの行動が面白い。

 

「いつか王子様が・・」なんていう「受け身」で「利己的」な夢から「能動的」で「利他的な存在」に変化しているからです。

 

ウテナはそこで「待っているだけの女」から「自分の意思で行動する人間」になるので、彼女は「ヒロイン」で「ヒーロー」なのです。

 

ところで、この少女革命ウテナ。

象徴的な「サイン」が至る所に散りばめられているのですが、僕が気に入ったのは「デュエリストの条件」という回に出てきた、マネの絵画の引用です。

 

この回では「黒バラを散らすこと」によって「心の病」を解決させる「黒薔薇会」を主催している「御影草時」が出てくるのですが、中盤で彼はベッドに横たわって現れます。

 

その隣には花束を抱えた褐色の少年。

この構図は、印象派のきっかけを作った「マネ」の代表作「オランピア」と同じです。

オランピアで横たわっているのは「裸の娼婦」で、彼女は笑顔も見せずにこちらを見ています。

売春によって「男たちの欲望を開放する少女」

その少女から向けられた「視線」は、傍観者(あるいは加害者)である「我々」に向けられている。

 

御影草時はこの時点で「現実主義者」に見えます。

 

「私は人の苦しみから目を背けない」と、こちらを見ている。

 

その意味を考えることがこの作品の楽しみの1つなのです。

ゴダールやリンチの様な難解なサインではないので、普通の人も楽しめる「象徴主義」だと思います。

 

それにしても、多様化した日本のアニメにはこういう「豊かさ」があるんですねー。

そんなわけで、長らく切り離していた「アニメ」を見直している夏です。

この先は「ボカロ」なんかにも目を向けたいと思ってますよ。

 

まだまだ「面白いもの」はあるものですねー。

 

山田玲司

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