第150号】働かないアシスタントを雇っていた理由とは?
働かないアシスタントを雇っていた理由とは?
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おことわり:このコラムは、ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で配信されているメルマガを全文転載してお送りしています。転載期日が2018年4月下旬以降の号は、テキストのみを抜粋・転載しております。
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その頃、僕の漫画の仕事場は、昼の1時に集合するのが決まりだった。
そんなに無理のある集合時間とは思えないし、仕事場も埼玉とは言え東京寄りで、交通の便もいい所にある。
なのに「あいつ」は集合時間がとっくに過ぎた午後3時頃に、まったく悪びれずに入って来たものだった。
「あいつ」とはそうです。今週の放送で話題にしていた僕の元アシスタント「ウエダハジメ」です。
彼は大学時代の漫研の後輩で、当時そのサークルにはプロの漫画家の在校生は僕しかいなかった。
なので、入って来る新入部員は僕にある種の「敬意」みたいなものを持って接してくれていたし、僕の方もそんな後輩を大事にしていたわけです。
なのにこの後輩「ウエダハジメ」は、とにかく偉そうだった。
普通に考えたら、そんなヤツをアシスタントにするなんて考えられない。
いや、むしろその態度に怒り出す人もいると思う。
でも、僕はすぐに「その青臭い態度」が、自分の中の「何か」を守るための「武装」であることに気づいた。
それを見抜いていたのは僕だけじゃない。彼の同級生の多くが彼の「恐ろしく純粋な部分」に気づいていた。
彼はいわゆる「特撮オタク」で、特に昭和のヒーローモノが好きだった。
僕は彼を思い出す時いつも「快傑ズバット」を思い出す。あんな感じで生きているのだ。
その他にも政治的なドキュメンタリーなんかも好きで、なんだかんだ詳しい男だった。
彼が好きな「70年代のヒーローモノ」は、とにかく「虐げられたものたちの思い」が描かれている。
彼はそんな「悲しきアウトサイダー」や「貧しく正しい者達」なんかの話が好きで、彼は更にそんな物語に含まれる「弱きものの欺瞞」みたいなものにまで目を向ける男だったのだ。
僕が彼をアシスタントにしていたのは、そんな彼と「深い話」をしながら漫画を描きたかったからなのだ。
当時の僕の周りには、幼馴染の「ヤンキー」と、地元でフラフラしている男子高生みたいなのが中心で、明るくて楽しいけど、とにかく「深い話」ができなかった。
とはいえ、彼を雇ったり、長年友人でいる理由は「それ」だけではなかったと思う。
今回その件を考えていて、わかった事がある。
それは「遺伝子」に関わる問題だ。
最近人気の脳科学者の人が言っていたのだけれど、日本人は世界で1番「心配性」の遺伝子を持っている国民らしい。
なので、我々日本人にとって大事なのは「失敗しないこと」で、そのためには「やりたいこと」を我慢する人が多い、と言うのだ。
「本当かよ」と、思うけど、実の所僕自身もなかなかに「心配性」の傾向がある。
「失敗したらどうしよう」と、いつも思う。
幸い「でも何もしないのは無理!!!」って言い出す自分の方が強いので、何とか「挑戦」から逃げないでここまで来られたわけです。
「失敗したらどうしよう」という「不安」があるから「だったらどうすればいい!?」「まずは何をするべきか!?」なんて切り替えて行動してたわけです。
でも僕がなんとかやってこられたのは、どうも「その力」だけではないようで。
それが今回の「働かないアシスタント、ウエダ」なのです。
彼はアシスタントとしてもやる気はないし、漫画も描かない。
一応漫画をやるつもりではいるみたいなのだけど、とにかく「何も描かない」のだ。
僕の方は連載もあるし、ヒット作まであるのに「売れなくなったらどうしよう」なんていつも焦ってる。
そんな僕の横で、僕のお金で買ったデザートなんかを食べながら「ウエダ」はいつも偉そうにふんぞり返って、文明論とか語ってるのだ。
本当に自分がバカみたいに思えてくる。
どうもこの「ウエダ」には「不安遺伝子」なるものが少ないみたいなのだ。
そして、なんだかんだ言いながら「自分のやりたいことしかやらずに」彼はプロになった。
講談社で漫画を連載し、映画秘宝でコラムを連載し、商業アニメまで作ってる。
気がつくと「化物語」なる、メジャーなアニメのエンディングを担当してたりする。
一緒にアメリカに行った時にはアリゾナの空港の本屋に彼のコミックスが売っていた。
彼は人の評価を気にしない。
豊かな暮らしでも、貧しい暮らしでも動じない。
いつも「うっとり」と、正しく「世界」を見ていたのだ。
そんな彼に僕はいつも救われていたのです。
ウエダは、未来が怖くてたまらない僕に「ご先祖さま」が使わしてくれた「へっちゃら妖怪」なのかもしれません。
ヤンサンに出て欲しい?
ですよね。僕もそう思います。でも彼は出ないでしょう。理由は1つ。
「家を出るのがめんどくさい」
それがウエダなのです。
山田玲司
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平野建太
Written by
ナオキ
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