コラム 2018.04.27

【第151号】イチロー嫌い

山田玲司のヤングサンデー 第151号 2017/9/4

イチロー嫌い

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おことわり:このコラムは、ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で配信されているメルマガを全文転載してお送りしています。転載期日が2018年4月下旬以降の号は、テキストのみを抜粋・転載しております。

 

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僕はイチローが嫌いだった。

いくら尊敬する河合隼雄先生が「イチロー」を誉めていても、なんかもうあの「雰囲気」が気にいらなかったのだ。
「振り子打法」なる巧妙な打ち方も、失敗を避けるための姑息な作戦に見えた。

「そんな無難な戦法までして打率を上げたいか?」
なんてね。
今考えればそれはもう明らかに「嫉妬」だった。

何しろイチローが活躍している長い長い期間は、僕にとって「長い長い不遇の時」と重なるからだ。
僕だって、可能な限りストイックに漫画を描いてきたし、恥をしのんでやりたくない仕事だってしてきたのに、どういうわけか結果が出ない。
直接言われたりはしないのに「 山田玲司はもう終わりだwww」なんて言われているんじゃないかと思うようになる。
そんな毎日の中で目に入ってくるのが「イチローの大活躍」だった。
こうなるともう、彼のストイックな生き方も、ナルシスティック(に見える)話し方も、もう何もかも気に入らない。

しかしです。
そんなイチローでも打率は3割くらいだったわけです。
絶好調の時でも「打率5割」とかではなく(そもそもそんな人はいない)要するに打席に入ったら半分以上は、三振だのセカンドゴロだので、大半の打席は「みんなの期待」を裏切ってみっともなく凡退していたわけです。
なにしろ「物事が上手く行ってない時の人間」てのは、ろくにものが「見えてないもの」なのです。

そんなわけで、最近の僕は午前中の時間を色々な事を思索したり、描いたり、ゴロゴロしたりしながらメジャーリーグの試合をなんとなく見ています。
イチローはほとんど「代打屋」になっていて、水島新司の「あぶさん」みたいに頑張ってる。

記録更新に沸き立つ時期に全然打てない。

それでも淡々と次に備えている。
なんだかどんどんイチローが好きになってくる。

日本にいた時は、あの野村克也に「神の子」と言われていた「まーくん」こと田中将大も出てくる。
彼はなんとニューヨークヤンキースというレジェンド球団の先発投手になってる。
そしてこれがまた「ボッコボコ」に打たれてたりする。
僕の大好きなダルビッシュも打たれまくってる。広島のスーパースターだった前田も打たれまくっている。

「ああ・・もうこれで登板の機会はないのかな」なんて思っていると、しばらくして彼らはまた試合に出てくる。
そして、この前とは別人のような素晴らしい投球で、バカでかいメジャーリーガーをガンガン打ち取っていくのだ。

僕は気づいた。
「野球を観る」とは「勝っている人を観る」のではなく「懲りない人を観る」という事なのかもしれない。

もちろん何事にも「潮時」ってのがあるのは仕方ない。
でも「まだやります」と、最終判断を下すのは常に「本人」なのだ。
1回の失敗で諦めるのか、10000回の失敗で諦めるのかは自分次第なのだ。

最近「ルマン24」のレースを観てたら、中島一貴や小林可夢偉が出ていた。

2人ともF1まで行ったのに結果が出せずにシートを失ったドライバーだ。

でもまだ「走ること」は辞めない。

同じくF1を追われた佐藤琢磨はあの「インディ500」で優勝までした。

どれもこれもF1と並ぶ世界的舞台だ。

そして「キングカズ」は今もサッカー選手。

「そろそろ指導者になったら?」なんて言われてるに決まってるけど、それを決めるのは自分だと思っているんだろう。さすがはキングのカズ。
失敗した人間に対して、すぐに「終わってる」とか「オワタw」みたいに言う人の気持ちもわかる気がする。

そういう人は、自分が持っているかもしれない「可能性」を終わらせてしまってるからだろう。

それは「親」のせいだったり、「環境」のせいだったりもするので気の毒でもある。

田中将大が「俺は終わった」と簡単に思ってしまうような人間なら、彼はあそこまで行ってないだろう。
この話を突き詰めれば「自分なるもの」を信じて挑戦し続ける力があるかどうか?の話になっていく。
もちろん人には「潮時」も「向き不向き」あるので、闇雲に「諦めないのは偉い」と言うのも抵抗はあるけど。

では彼らはなぜ「諦めない」のだろう。

「守るものがあるから」かもしれない。

「他の選択肢が無いから」なのかもしれない。
でも最後はやはり「好きだから」って話なんだと思う。
草野球を辞めない友人は、甲子園にもプロ野球の試合にも出られなかったけど、それでも野球を辞めない。
それはきっと「ボコボコに打たれても辞めない田中将大」や「出番がないのに素振りをしているイチロー」と同じだ。
そんなこんなで、打たれてもまた出て来るメジャーリーガーを観ながら、僕も漫画を描く。

絵を描く。物語を作る。企画を考えて、思索をする。

好きだからやるのです。

好きならやればいいんです。

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