コラム 2018.05.18

【第160号】「ダルビッシュの残酷ショー」で、最後に笑うのは誰だ?

山田玲司のヤングサンデー 第160号 2017/11/6

「ダルビッシュの残酷ショー」で、最後に笑うのは誰だ?

 

 

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おことわり:このコラムは、ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で配信されているメルマガを全文転載してお送りしています。転載期日が2018年4月下旬以降の号は、テキストのみを抜粋・転載しております。

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もう見るに耐えない情景だった。

 

これほど残酷なシーンは、ここ最近見たことがない。

何の話かと言えばMLBだ。アメリカのプロ野球のNo.1チームを決める試合での話。

 

僕は最近メジャーリーグの試合をよく見る。

自分には何の関係もないのだけれど、午前中のBSで放送があるので何となく見てしまうのだ。

 

もはや何の信用も出来なくなった日本の報道番組は見たくないので、朝は主にBSのワールドニュースを見ている。

なので、自動的にその後に始まるメジャーリーグ・ベースボールを見る事になっていたからだ。

もちろん仕事をしながらの「ながら見」なんだけど、これがどうにも面白い。

 

サッカーのプレミアリーグも面白いんだけど、その理由は何と言っても「世界中から集まった頂点の選手たち」にある。

 

アメリカだけでもニューヨークだの、マイアミだの、テキサスだの、出身地は多岐にわたるのに、そこに全世界から人間離れした「野球エリート」が集まっている。

 

日本、韓国、ベネズエラ、プエルトリコ、キューバ、ドミニカ、あたりの「アメリカ文化圏」の選手が多いものの、人種や文化がバラバラでそれぞれにドラマがある。

 

そのダイナミックなプレイもいいんだけど、それぞれのチームにまつわる「物語」がまた面白い。

 

しかも、1年間の間戦い抜いて、2つのリーグの代表になる為の過酷なトーナメントを勝ち抜き、最後に「ワールドシリーズ」という、野球世界の「最高峰」の舞台に残るのはわずか2チーム。

 

この「世界一のチーム」を決めるワールドシリーズは、普通ではない盛り上がりを見せる。

 

膨大な数ある「マイナーリーグ」から「メジャーリーグ」に上がるだけでも大変な事なのに、そのメジャーリーグで一番を決める戦いが「ワールドシリーズ」なのだ。

 

これは、世界中すべての野球選手の憧れのステージで、あの現役が長い「イチロー」ですら、この舞台には1度も立ててはいない。

 

アメリカの野球少年は子供の頃から「ワールドシリーズ」に出る事を人生最高の夢だと思っているという。

 

そんな「世界の頂点」であるワールドシリーズの舞台に、今年2人の日本人が立った。

 

それが「ダルビッシュ有」と「前田健太」だった。

 

それだけでも面白いのに、毎度のことながら「チーム」にもそれぞれ興味深い「物語」がある。

 

去年はシカゴ・カブスがワールドシリーズに出た。

カブスには「ヤギの呪い」という物語があってこれまた面白かったので、去年放送でその話をした。

 

その昔、大のカブスファンが、いつものように「ペットのヤギ」を連れて(ヤギの分のチケットも買って)来たのを、チームスタッフが追い返してしまった。

それからカブスは70年もの間「後1歩」のところで優勝を逃す事になったので、人びとはそれを「ヤギの呪い」だと言っていたのだ。

 

そして今回もまた両チームに「物語」があった。

ワールドシリーズに進出を決めたのは、ヒューストン・アストロズとロサンゼルス・ドジャース。

 

今年、アストロズの地元ヒューストンには猛烈なハリケーンが襲った。

町の多くが水没し、スタジアムも大きな被害にあった。

ファンの多くが、家を失ったり、家族を失ったりしていたのだ。

そんな彼らを勇気づけるためにアストロズは戦った。

そして、かつての弱小チームは信じられない強さを見せてリーグ優勝したのだった。

 

一方ドジャースはカリフォルニアのチームだ。

カリフォルニアは歴史的な山火事に襲われ、こちらも大きな悲しみを抱えていたのだ。

 

温室効果ガスの排出量が過去最大となり、温暖化による被害が年間900万人と言われる2017年。

 

野球もまた地球温暖化と無関係ではいられなかったわけだ。

ワールドシリーズ進出の両チームは、図らずもどちらも「地球温暖化の被害都市」だったというわけだ。

 

そんな中、前田健太が活躍する。

先発ピッチャーの彼が、中継ぎを託され、ここ1番の場面でマウンドを引き継いでは「無失点」に抑えていた。

 

そしてダルビッシュだ。

 

彼の今季はテキサス・レンジャーズで始まった。

ところが、どうにもこうにも「勝てない」。

あの天才豪腕投手だったダルビッシュが嘘のように打たれまくった。

 

心配して見ていたら、レンジャーズはダルビッシュの解雇を決定。

 

行先は大丈夫だろうか?

なんて思っていたら、何と彼を迎え入れたのは、あの「ドジャース」だったのだ。

素晴らしい話だけど、選手層の厚い名門チームだし、心配にもなる。

 

しかし、移籍直後のダルビッシュは、いきなり勝ち星を上げた。

その後も不調だったのが嘘のように大活躍したのだった。

 

ワールドシリーズを決める大事な1戦に先発した時も、見事に相手チームを抑えて、チームの勝利に貢献した。

 

そんなダルビッシュなので、ワールドシリーズの先発に選ばれている時点で、かなりの奇跡的な流れの物語を抱えていたのだ。

 

接戦続きのワールドシリーズ第3戦。

ダルビッシュは先発投手だった。

世界中の野球少年の夢の舞台に彼は立っていた。

 

ところが、何とか1回を0点で抑えたものの、2回に彼はアストロズ打線につかまる。

あっという間に4点を奪われ、監督にマウンドを降ろされ、夢のシーンは最悪の結末となった。

わずか2回も彼はアストロズを抑えられなかったのだ。

 

おまけに、後味の悪い出来事まで起こる。

ダルビッシュからホームランを打ったアストロズのグリエルが、アジア人を侮蔑するポーズをとったのだ。

 

これは試合後、大問題になり、グリエルは来季5試合出場停止の処分になった。

 

大ブーイングに落ち込んで、暗い表情のグリエルは「反省している」と何度も言っていた。

 

そんなグリエルについて聞かれたダルビッシュは「誰にも間違うことはある」と言ったらしい。

何とも泣ける話だ。

 

でも試合は、この時の4点が返せず、ドジャースは負けてしまう。

 

この後両チームは、歴史に残る凄まじい試合を重ね、3勝対3勝となった。

 

最終決戦はドジャースの本拠地での開催。

この試合に勝った方が世界一になるのだ。

 

そして、そんな恐ろしい試合の先発投手が「ダルビッシュ有」だった。

世界でたった2人しか立つことの出来ない「ワールドシリーズ第7戦」の先発マウンドに、ダルビッシュは立っていた。

 

ここまで見ていた僕はもう「人ごと」ではなかった。

「勝てなくてもいいから、とにかく最小失点で次のピッチャーにまわしてくれたらいい」と思っていた。

ところが彼は、あっという間に2点を取られてしまう。

フォアボールとエラーが呼び水となってしまい、わずか数球での「2失点」だった。

 

そして打席には「あのグリエル」が入った。スタンドは大ブーイングだ。

 

そんな中、グリエルはダルビッシュに対してヘルメットを脱いで一礼をした。

 

ダルビッシュはうなずく。

何とも感動的な場面だ。

 

でもここで打たれてしまっては困る。

どうにか抑えてくれダル!

 

しかし、無常にもヒットを打たれ、その流れは止まらなかった。

2回ツーアウトまでに3安打5失点。

前回と同じようにズタズタにされ、全世界、何億人が見ている場所で無様にマウンドを降ろされたのだ。

 

こんな残酷な場面はめったにない。

 

それでもドジャースの打線は強力だ。1試合に12点取った試合だってある。

5点くらいはどうにでもなるだろう。しかもここはホームタウン。物凄い応援がチームを後押ししているし、アストロズはワールドチャンピオンになったことはないし、完全にアウェイだ。

 

しかし、そんな期待をよそに、ドジャースはここ1番でチャンスをモノにできない。

逆にアストロズのピッチャーは回を追うごとに調子を上げていった。

 

結局この試合もまた、ダルビッシュが取られた大量得点のせいで、ドジャースは負けたのだった。

 

僕はこのドラマの結末が消火しきれずに愕然としていた。NHKは予定通りこの試合の再放送をすると言う。

待ってくれよNHK。こんな残酷ショーを誰が喜ぶんだ?

 

でも問題はここからだ。

 

僕は考えた。

 

今回「どういう試合」になればダルビッシュは「幸せ」になれたのだろう。

 

勝てば彼は幸せだったのか?

 

その時は幸せかもしれないけれど、その後はどうなる?

今までと同じような熱い気持ちでマウンドに上がれるのか?

 

彼は今、世界中の誰よりも「ワールドシリーズのマウンドで勝ちたい人間」だろう。

 

彼は「このままでは終われない男」になったのだ。

 

いや、負けることで「このままでは終われない男」にしてもらったのだ。

 

この時使用されていたボールは、いつもと違って縫い目が低くて滑りやすい使用になっていたらしい。

そのせいでダルビッシュは得意のスライダーが決まらなかったという。

 

そんなこんなの全てが「これから」を熱くするだろう。

 

そこそこのキャリアをつんでいたダルビッシュの野球人生は「終わり」に向かわないだろう。

逆に今回の試合で完勝でもしたら、彼の野球人生は「終わり」に向かったかもしれない。

 

なんだかこの話「大ヒット作」も「アニメ化」もない僕の人生と重なる。

僕はその「結果」が出ないおかげで今も熱い気持ちで「新しい挑戦」を続けられているのだ。

 

実のところ、僕の人生の目標は「大ヒット」や「アニメ化」ではない。

憧れの人がピカソや手塚治虫なので、本当の目標は「本物を作り続けること」なのだ。

 

でも「世間的な結果」が出ていない事で、僕は「終われない男」でいられる。

「結果は出せたし」と言って自分を誤魔化す事もできないし「本当の目標」は簡単にクリアできないからだ。

 

なので、朝起きた時の気分は高校の頃と変わらない。

 

ダルビッシュの「残酷ショー」で、最後に笑うのは、おそらく「ダルビッシュ本人」だろう。

 

その後の結果がどうであろうと、それでも戦った、という日々が楽しくないわけないのだ。

 

僕の毎日が楽しいのがその証拠だ。

 

山田玲司

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企画編集:山田玲司
平野建太
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