コラム 2018.05.25

【第161号】植物の恋愛とニコ生のゆくえ

山田玲司のヤングサンデー 第161号 2017/11/13

植物の恋愛とニコ生のゆくえ

 

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おことわり:このコラムは、ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で配信されているメルマガを全文転載してお送りしています。転載期日が2018年4月下旬以降の号は、テキストのみを抜粋・転載しております。

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イチョウの木に「銀杏」という実が成る季節になると、上野公園はなんとも言えない「臭い」が漂う。

 

腐りかけの銀杏の実が放つ「独特の臭い」は、決していい香りではないのだけれど、これもまた「季節の風物詩」で、僕は嫌いじゃない。

 

ところが、同じ東京のイチョウの街路樹でも「臭わない」場所もある。

青山とか原宿なんかの「お洒落な街路樹」では、銀杏が落ちていない。あるのかもしれないけど、少なくとも「僕の記憶」には「銀杏臭い外苑前」の記憶はない。

 

イチョウには「実の成る」メスの木と、「実の成らない」オスの木があるので、原宿などではあらかじめ「実が成らないオスの木」だけを植えているらしいのだ。

 

オスの木は「どこかにいるであろうメスの木」に向けて、ただただ「花粉」を飛ばすだけの恋をしている存在だ。

 

迷惑がられる「花粉」ではあるけど、「銀杏の臭い」よりはマシだということらしい。

なので青山付近のお洒落タウンに植えられる事を許可された銀杏は「オス」ばかりだと聞いた。

 

つまり、神宮外苑付近のお洒落な道は「女を夢見る男たちの木」が延々と並ぶ「男子校の応援団」みたいな道だというわけだ。

 

クリスマスなんかには、その道を「大量の恋人たち」が通りゆく。

 

おお・・

 

なんとも残酷なお洒落タウン。

お洒落タウンが「ソロ男子」に嫌われるのは「イチョウの怨念」のせいなのかもしれない。

 

 

ところで、この植物の恋愛。

なにもこんな残酷な「男と女のしくみ」を植物にまで持ち込まなくてもいいじゃないか、なんて思うけど、これもまた「自然」が持つ「合理性」がある。

 

生き物に「オスとメス」があるのは、「強い個体」かつ「多様な個体」を残して「子孫を繁栄させる」ためだ。

 

同じような形と同じようなスペックの子孫を量産してしまうと、強い生き物や、ウイルス、環境の変化に対応できないで全滅してしまう。

 

なので、メスの木が欲しいのは「自分と違う環境」で「自分と違う経験」をしている「ちょっと違った個体の遺伝子(花粉)」だ。

 

この話。何もかもが「人の恋愛」を思い起こさせる。

 

お洒落な外苑前の道で「女を求めて動き回る人間の男たち」を「動けないイチョウ」はどんな思いで眺めているのだろうか。

 

そんな「オスイチョウ」を抱きしめてあげたくなるのだけれど、僕のやっている「漫画家」という仕事もまた「外苑前のイチョウ」と似ている。

 

どこかにいるかもしれない「僕を待っていてくれる誰か」に向けて、「最高の花粉」(漫画)を作るのだ。

 

時には「中身のないインチキな花粉」が「見た目」や「売り方」だけで「もてはやされている」のを見てうんざりしたりする。

 

そうは言っても。時代を超えて残る「花粉」は、やっぱり「本物」ばかりにも見える。

 

そんなわけで、あせらずに淡々と「いい花粉」を送り、それが届くのを思いつつ、前向きに生きていくしかない。

 

 

井上陽水の歌の歌詞に「まるで釣りをする時の手引のつもり」で語った事が「まるで人生のような話」になった、という歌詞がある。

 

あ。これって先週やってた「まるで人生」のギャグに重なるな。まあいいか。この曲は奥田民生との共作だけど、まあいいか。

 

その歌の中で、釣りも人生も「どうか届けと、つぶやき投げるとよい」みたいな事を言っている。

 

おそらく、花粉を飛ばす「男の木」の皆は、そんな心持ちで生きているのだろう。

 

ニコ生の放送に関しても、僕は最初の頃「どうか届け」の気分で語っていた。

観てくれている多くの人が、僕の漫画などは読んだことがなく「誰だお前」と言った感じなのもわかっていた。

なので「届いていない人のコメント」は誤解や偏見を含んでいて、いわゆる「荒れた感じ」のものも多かった。

 

ところが最近はまったく違う。

僕らのノリを理解して、時に「難解な旅」にも付き合ってくれる。

 

届いてるのだ。

 

先日のゴルパンのオフ会では「 玲司さんて3Dだったんですね」と言われた。

 

その人にとって僕らは「画面(2D)の中の存在」なわけだ。

そしてそんな「2D」の僕らは「現実世界」でも出会い、仲間になった。

これは貴重な「銀杏」であり、それは後の世に続く「種」だ。

 

最後にお洒落タウンの男子イチョウたちに一言。

 

「寒くなるけど、お互いがんばろうな」

 

山田玲司

公式サイト:漫画家 山田玲司 公式サイト
Twitter:@yamadareiji
ファンサロン:GOLD PANTHERS

 

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企画編集:山田玲司
平野建太
発  行:株式会社タチワニ
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