【第196号】「ブエノス・アイレス」
「ブエノス・アイレス」
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おことわり:このコラムは、ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で配信されているメルマガを全文転載してお送りしています。転載期日が2018年4月下旬以降の号は、テキストのみを抜粋・転載しております。
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19世紀、スペインから独立したアルゼンチンには、ヨーロッパ各国から移民が押し寄せた。
それも裕福な人々ではなく、新天地に夢を抱いた開拓者や、なんらかの事情で祖国にいられなくなった貧民、罪人、娼婦など、「棄民」とも呼ばれる人たちなどが中心となって。
旅客機のない時代、長い船旅を経て彼らが降り立ったのは、大河・ラ・プラタ河沿いの何もなかった平原に、植民都市として作られた当時人口5万人ほどの港町…。
彼らは独立政府と協力して、町を碁盤の目に整備し、南米にありながら最もヨーロッパに近いと言われる美しい都市を作り上げる。
その街こそ、それぞれの祖国へのノスタルジーとルサンチマンをカタチにした“南米のパリ”、アルゼンチンの首都、ブエノス・アイレスだった。
「buenos(良い)aires(空気、風)」。
港町らしく、船乗りの望む「順風」がそのまま街の名前になったこの南米のパリの象徴が「7月9日大通り」。
都市整備計画の一環として企画され、計画からおよそ100年をかけて建設されたブエノス・アイレスの基幹道路だ。
片道なんと8車線!
道幅最大110メートル!
もちろんこれは世界最大の道路で、反対側に渡るのに信号が2、3回は変わってしまい、渡りきれず横断歩道の踊り場で立ち尽くす日常風景はもはやパリでもマドリッドでもない。
この「7月9日」とは、1816年のアルゼンチン独立記念日のこと。
そう、この「7月9日大通り」とはブエノス・アイレスのみならず、アルゼンチンという国のシンボルなのである。
2014年7月13日の夜、俺はこの通りにいた。
ブエノス・アイレスに住むすべての人が集まっていたんじゃないかってくらいの凄まじき大群衆の中の1人として。
その夜の熱狂は世界中のニュースになっていたので覚えている方がいるかもしれない。
そのほんの数時間前、W杯ブラジル大会の決勝戦、延長戦の末にアルゼンチンは惜しくもドイツに敗れてしまっていた。
悲しみに暮れるとはまさにこのことというくらい落胆と放心の涙を流していたアルヘンティーナたちだったが、試合後、1時間ほどすると誰に導かれるわけもなく立ち上がり、歩き出す。
パブリックビューイングで試合を観ていた人から、スポーツバーやカフェで応援していた人、家で仲間や家族と見守っていた人など、まるでブエノス・アイレス中の人達が、アルゼンチン代表の応援歌を歌いながら一斉に動き出したのだ。
そのほとんどがユニフォームを着、手には国旗と酒、そして笑顔。
おいおい、さっきのこの世の終わりくらいの悲しみ様は何だったのか!?
あ!
これが!
この切り替えがラテン系というやつか!!
と俺は瞠目した。
でもなぜこの通りにみんな集まるのかと、集まって歌っていたある市民に聞いたらば、彼はこう言った。
「だって、広いからさ!」
…その夜は、さすがの世界最大の幅を持つ道路でも市民たちで溢れかえり、足の踏み場もないほどのお祭り騒ぎだった。
いや“お祭り騒ぎ”程度ならよかった。
W杯日本戦の渋谷や、阪神タイガースが優勝した時程度のことならば日本とさほど変わらない。
生憎ここは、南米である。
終わりのない祭りを後にして帰宿し、あくる朝ニュースを見てさらに瞠目した。
「7月9日大通り」に集まった人々が暴徒化し、暴動に発展していたのだった…。
さて。
このあいだのヤンサンで玲司さんと今大会の日本代表について少し(少しではない)語った。
それを受けて何人かの方から意見をいただいたので、少し言い方が拙かったと思いツイッターで軽く意見を述べた。
読まれていない方もいると思うので最後に少し貼っておくが、俺がここまでサッカーということを通して熱くなるのは、4年前に体感したあのW杯決勝戦の、ブエノス・アイレスの夜があったからだ。
簡単に言うとなんか、すごくもったいないなと想ってる。
良くも悪くも人間は、サッカーを通して(別にサッカー以外であっても)あんなにも熱くなれるものだと知ってしまったから、心の何処かで日本サッカーへの、日本に対する国民の姿勢が、物足りないと感じているのだろう。
別に熱くなることが必ずしもいいことではないし、暴動になるくらいなら家で寝てろと言いたい。
醒めているからこそおもしろいものもあるし、静かだからあつくないわけじゃない。
そもそも人のパッションの振り幅なんて、人それぞれだから測りようもないのはわかってる。
しかし、熱くなれるものに対して、熱くなろうとしないのは、生きる上でとても勿体ない。
たとえそれがスポーツであれ漫画であれゲームであれ旅であれ、恋をするような熱情を持って人生を謳歌したいなと改めて思う。
疲れたら休めばいいし。
そしてヤンサンは、そういう情熱を喚起させる番組でありたいなとシンプルに思うし、そうしていくつもりだ。
そのやり方や言動が多少荒く見えたとしても、ごちゃごちゃ言いながら「好き」をぶつけ合う番組でありたい。
そうしてそれぞれの情熱で人生のノスタルジーとルサンチマンを
「buenos(良い)aires(空気、風)」
にしていきたいのだ。
7月22日
人懐っこい風の吹く祭りの夜に
奥野晴信
「こないだのヤンサンで日本代表のポーランド戦の終盤パス回しの件を批判したら、あれは賭けに勝ったんだとか、決勝トーナメント行くための最善だったとか、覚悟決めて結果出したんだから問題ないんだとかいう意見がきていた
俺のとは、違うなぁ
申し訳ないが、その意見にはまったく同意しない
残り15分もあるのに消極策を採るような腰砕けのサッカーを、そもそもやった本人達が申し訳ないと、ブーイングも批判も当然と恥じているのに、評価しちゃったらそれこそ失礼でしょ
あれは日本サッカーの発展のために必要な下策であったというなら、それを恥じること、批判することが次のレベルに進む道。
それに結果的にとか、結果出したんだからとかを第1の評価にするなら、もうフランスだけしか褒めれないじゃん
日本の場合は決勝トーナメント行くのが目標で、どんな形であれ決勝トーナメント行かなきゃ、結果だせなきゃ意味がないってんなら、じゃあそれ言う俺らの人生はそんなにいい結果出してんのかな
結果は大事
あたりまえ
だけど、それに向かう姿勢と過程の方がもっと大事
そういう社会にしないと、みーんな敗北者になってしまう
志望校落ちた、何社も面接落ちた、仕事しすぎて鬱になった、毎日練習したのに甲子園出れなかった、手塩にかけて育てた野菜が雨や日照りで枯れた、愛していたのに別れた
ポーランド戦に戻る
戦術や駆け引きでの狡猾さとは違う次元の、戦闘放棄するようなことはあってはならない
戦争してるんじゃないんだ
サッカーをちゃんとしてくれ
ましてやサムライと名を冠するフットボーラーなら、それを応援する者ならばなおさら怒らにゃ
倭寇ブルーなら全力で擁護するがね(笑)
或いはクラブチームや個人参加なら特に批判もしない
でも、これはW杯日本代表
その国の模範であり、鏡であり、美学であるべきだ
だからこそ結果ではなく、如何に闘ったか、相手に対して敬意を持って、どう全力を尽くしたか
それを全身でもって見せてくれるのが、国を代表して闘う使命だと信じている
だからこそあの訳の分からないハリル解任騒動を許せないし、だからこそあのポーランド戦の終盤の下策と、それを恥じることによって敢闘したベルギー戦の評価は、しっかりしなければいけない
ルールが許してもスタイルが許さない
そもそもそういう型を確立するのが本田世代の追いかけていたものだったはず
ベルギー戦のあと、サムライブルーがようやく始まったと感じたのは、あのポーランド戦の恥を忍んだ策の上に打ち建てた、美しき敗北だったから
本田世代がこの12年で目指したものとその軌跡が、敗北という結果によってしっかりと刻まれた
俺たちのサッカーが目指したものが何だったのかを見せてくれた
美しい敗北がいいなんて言ってない
結果じゃなくその姿勢が美しかったから感動したんだ
サッカーも、人生も、残酷だ
だからこそ泡の結果に惑わされることなく、ちゃんと挑戦する姿勢を、過程を含めた結果をこそ大切にしなければ、心が持たんよ
どんな結果もまた、人生という過程のひとつなのだから
…以上、俺の意見は番組に寄せてくれた方々にそれなりに伝わっただろうか
このまま一方通行でやり過ごすにはもったいない議題なので、ヤンサン白熱シンポジウム第二弾は日本代表およびW杯総括をやります!
たぶん8月、日本代表新監督が決まったくらいのタイミングで
異論反論ある人は是非参加してくれ
詳細はまたおいおい
つーか俺の意見は基本的に感情論だから、まぁ文句言いたいやつもゴマンといるだろう(笑)
それでないとつまらない
どんな片隅に見えても、真剣に語れる場を創るのもヤンサンの使命
YSMでサッカー好きのやつ、待ってるよ
これもまた、結論ではなく議論の過程をこそ楽しもうぜ!」
山田玲司
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平野建太
Written by
ナオキ
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