【第209号】「本を読め」は正しいのか?
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おことわり:このコラムは、ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で配信されているメルマガを全文転載してお送りしています。転載期日が2018年4月下旬以降の号は、テキストのみを抜粋・転載しております。
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「本を読め」というアドバイスはやたらと聞く。
特に年長の世代からは「これ以上ない真実である」みたいに、これを聞かされる。
かく言う僕の父親も常にこれを言ってた。
現代美術アーティストの李 禹煥先生は、若い頃「本屋にある本は全部読んだ」と、恐ろしい事を普通に言っていた。
スチャダラパーの初期の名曲「サマージャム’95」の歌詞にはこんなのもある。
夏が来て暑くなって、負けるかって気になって、意味なく外に出て。
海行く?山行く?
いや、まず本屋だ。
みたいな事をライムしているのだ。
夏に本屋。実にスチャダラパーらしい。
そうまでしてなぜ「本」を読むのか?
昔「非属の才能」でも書いたけど、「本」は「人」だのだ。
あらゆる時代の人の言葉が時空を超えて封印されているのが「本」なのだ。
だから僕らは「あの時代の三島由紀夫さん」が言いたかったことに触れる事ができる。
小説や、エッセイ、漫画などのスタイルの違いは、その人の「言い方」「伝えやすいスタイル」の違いだ。
物語は相反する問題を語って、読み手が考えるのに向いている「手法」だし、エッセイは気楽におしゃべりしている中で何かを伝える感じの「手法」だ。
漫画はその中に「映像」を導入して、別の豊かさを生んでいる。
なので、その時の自分の気分で、作者の選んだ「スタイル」を選択すればいいわけです。
そして、「いい本」に出会うことは「いい人」に出会う事でもある。
しかも、その人(作者)は読み手を拒まないので、その気になれば誰でもその人に会える、というのもいい。
どうあがいても、今の僕らには手塚治虫や三島由紀夫に会って話を聞くことはできない。
存命中だからと言って、気楽に北野武に会う事もできない。
そんなこんなで100冊の本を読んだら100人の人に会ったのと同じ、みたいにも思える。
なので、学校や、社会そのものが厭になって、誰とも話したくない時期が来たら「本」を読んだらいい。
というわけで。
そんな事を「非属の才能」に書いたのがもう11年前の話。
基本的にその考えは変わってないのだけれど、どうもこの所「本屋」に厭な感じの本が増えた。
「売れれば勝ち」「売れるだけでいい」というタームに入った世の中は、「本」には必須だった「精神的な豊かさ」みたいなものが消えてしまい「ニセモノの高貴さ」みたいなのが怪しい匂いを撒き散らしている。
テレビも同様なのだけど、どうにもこうにも「いい人」に会える場所ではなくなってる。
と、僕は感じる。
もちろん1部の「まともな本屋さん」は、この状況と格闘しているけど、残念な事にそれも少数。
本屋を愛する僕だけど、ここは冷静になって「まともな本屋」に行くか、図書館に行って昔の本を読んだ方がいいと思う。
どうもこの話、やっぱり「人に会う」事に似ている。
「病んだ人」が求める「病んだ意見」が並ぶ本屋は避けて、「健康な人」や「本物」がいる図書館に行く。
そこには「死んだ人」も含めて「いろんな人」「いろんな意見」がある。
ところで。
僕が昔、対談漫画「絶望に効くクスリ」を描いていた時の事です。
人は「これ」という質問を受けた時、恐ろしく「面白い話」をしてくれる事があるのだと気がついた。
質問のテクニックについては何度も書いたので、僕の「キラークエスチョン」でも読んでもらったらいいのだけど・・・
とにかく「人間」は「本」なのだ。
読み手の技量を必要とする本があるように、人間にも「読むのが難しい」って人もいる。
でも「話を聞こう」という意思があって、頭ごなしに否定しなければ、ほとんどの人が「面白い本」となる。
僕は毎週来てくれるアシスタントに話を聞くのが好きで、彼らの話を「連続ドラマ」みたいに聞いていた。
人の話は、その人自身の話だけでなく、その人の周辺にいる人の話も含まれる。
なんなら「思い出話」や「未来の妄想」なんかも入るわけで、その情報量は果てしない。
ありがたいことに、ほとんどの人は「話を聞いてもらいたい」と思っているので、こっち次第では喜んで話をしてくれるのだ。
「本を読め」は、ある範囲で正しい。
でも、本は読むけど隣にいる人を何も知らない世界はもったいない。
無理に声をかけて質問責めにしたり、そんな事はしなくていいけど、少しぐらいの質問をするのは「変な本」を読むよりずっといい。
追伸
ところで。
なんでこんな話を書いているかと言いますとね・・
これを書いているのは、ゴルパン恒例の「湘南花火大会バーベキュー」の直後なのです。
漫画の仕事が忙しくて、直前まで花火がある事すら頭になかったけど、とにかくおっくんに約束の「ベーコン」を渡さなければならん、くらいは覚えていた。
バタバタと浜辺に行くと40人ものゴルパンメンバーが来てくれている。
ヤンサン関連の曲にコードをつけてくれて小冊子にまとめてくれた人(原さん)や、僕のためにアヒージョを持ってきてくれた人(なっちゃん)や、完成したばかりの作品集を持って来てくれた人(関口さん)に、楽器を抱えた音楽部メンバーの中には今季のキング「トガシ」も野口くんも来てくれてる。
オズは黙々と肉を焼いてくれてる。
前に恋愛相談をしてくれた男は「明日その娘とデート」なのだと言っている。
その他にも初参加のアニメーターの人やら心療内科医の人やら・・・それはもう「面白そうな人」が沢山いる!
どうしよう・・
なるべく色々な人と話したいぞ。
でもいつものメンバーとも盛り上がってしまうし、こっちも楽しいし・・
なんて思っていたらあっという間に日が暮れて、みんなでおっくんの誕生日を祝ってたら、またたく間に花火が始まってしまった。
しかも開始直前に雨が降ってきた。
土砂降りの中、1人として不機嫌にならないゴルパンメンバーに感動していると、後ろから「スッ」と傘を差し出してくれた男がいた。
僕は彼と「いい花火だねえ」とか言いながら花火を堪能したのだけど、その彼ともろくに話ができないまま花火は終わり、雨はいよいよ本降りとなった。
まるで映画「ダンケルク」状態になった砂浜の暗闇でみんな協力しあって撤収作業をしている。
ずぶ濡れなのに誰も不満を言わないし、笑顔でおっくんの指示に従って動いてる。
なんなんだ、この人たちは!俗世に紛れた高僧かっ!
とか思っていたらもう帰る時間になっていた。仕事場に戻って原稿を送らなければならない。
なんだよもう。
あんなに面白い人たちが来てくれてたのに。
僕は「沢山の面白そうな本」を読めないまま帰途についたのだ。
来てくれたみんな、話せなくてごめんね。
また今度話そう。
ゴルパンのオフ会や、観覧で、僕に話がしたい人は気楽に声かけてくださいね。
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平野建太
Written by
播磨 貴文
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