コラム 2017.07.07
【第51号】いないことにされた人間
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メルマガ発行日 2015/9/21
いないことにされた人間
いないことにされた人間
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サウスパーク特集は大盛り上がりで最高の時間でした。
でも実を言うと僕はサウスパークのすべてが好きなわけではありません。
放送では、「いかに彼らの作品が素晴らしいか」を伝えてましたけど、サウスパークは時代によって主張や立ち位置がブレる事も多いし、イラクや北朝鮮のあつかいなどは表面的で賛同できない表現も多いように感じます。
何より僕は「度を超えた下ネタ」が苦手なので、回によっては飛ばすこともあります。
そんなこんなの、やんちゃなサウスパークですが、今この作品を扱おうと思った理由は、お気づきの方もいるかと想いますが「安保法案と原発」のタブー化と、被害者サイドの内部分裂(内ゲバ化)を避けたい、という思いがあったからです。
「原発はわかるけど、戦争の被害者サイドって誰?」と言えば、「戦争というビジネス」に巻き込まれて死傷し、家族や故郷を失った世界中の人と、「そうなりたくない」と思っている人達です。
思いが同じであれば、些細な事で批判し合っているのは不毛です。
この国はいつもこの「同じようなもの同士のぶつかり合い」でエネルギーを削がれてしまい、肝心の問題はいつも「顔の見えない人たち」の好きにされていった歴史がありますから、責めるべき対象は見極めなければならないのです。
戦争論をするにしても「軍産複合体制」(軍需産業のための戦争)が生まれて以降の戦争は、それ以前の国防論とは違うもので、ここもまた混乱の原因です。
こういう時代の議論は、どの人の発言にもインセンティブ(どんな利益目的を抱えているか)を考慮しなければならず、基本的に議論にはなりません。迂闊に理想を語ると「不毛な消耗戦」が待っているわけです。
そして同じような思いを持った人たちの間に亀裂が生まれ、対立は離脱組を増やし、事態は相手の望む様に進んでしまうのです。
人には違いがあって、それぞれ考えも違うけれど、結局はどうなりたいのか?と言えば、みんなが「幸せになりたい」わけです。
そして(宮沢賢治も言ってましたけど)どこかに不幸な人がいたら、本当の幸せはこないのです。
誰だって自分の存在を無視されたくはありませんし、誰かの幸せの犠牲にもなりたくなんかありません。
テロや暴動などの背後には、常に「存在を無視された人達の怒り」があるのです。
サウスパークでは、問題が起きた時は「殺すしかない」という解決を(ギャグとして)ぶち込んで、その悲惨な結末を描いていくのが鉄板です。
異なるものを排除しても、それは解決にはならないのです。
サウスパークに「自分の幸せ(安心して生きていける)のためには自分とは違う人の存在を受け入れなければならない」という着地が多いのは、この辺の事が深く理解できているからだと思うのです。
そんなサウスパーク哲学に僕は希望を持ってしまうわけです。
僕らはユダヤの人達が先の戦争で壮絶な苦難を味わったのを知っているので、そのユダヤの人達が今現在「軍産複合システム」の中核にいて、世界中にミサイルを打ち込んでいる、という話を聞くと複雑な気持ちになります。
それが「迫害を受けてきた民族の復讐」なのか「単なる利潤追求のビジネス」なのかはわかりません。
でも、思い出すのは、そのユダヤ人を迫害したヒットラーはかつて「売れない画家」だったことです。
つまり彼もまた「いないことにされてきた人間」だったわけです。
今の政府は「津波と原発で住む所を失った人」や「貧しい人」や「若者」や「地方の人」や「自衛隊員とその家族」などの気持ちを「なかったこと」にした政治をしています。
その「怒り」を彼らは甘く見ているのです。
僕も何度も「いないこと」にされてきた人間です。身体が弱かったので学校の頃もひどいものでしたし、絵が技術的に下手なので漫画家になってからのあつかいも、ひどいことが多かったです。
でも、そういう時こそ、自分や自分に似た人や、成功しているように見える人を責めてはいけないのです。
責めるべきはもっと大きな「人間の抱えている何か」です。
「あいつなんかどうなったっていい」と思ってしまう、人間の中の「何か」なのです。
山田玲司
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企画編集:山田玲司
矢村秋歩
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Written by
市川 剛史
どすこい喫茶ジュテーム