コラム 2017.07.23

【第67号】「ディズニーを越える」西野問題

山田玲司のヤングサンデー 第67号 2016/1/18
「ディズニーを越える」西野問題

 

 
西野戦略は無視するべきか?
今更の話なんですけど、どうも芸人のキングコング西野さんと言う人が「僕はディズニーを越える」と言っているという話を聞きました。
この話はかなり前にテレビで盛り上がったそうなので、今更どうでもいい、と言う人も多いとは思うんだけど、実はこの西野さんという方、僕の友人のピュアモンスター「のぶみ君」と一緒にニコ生チャンネルの番組をやっているんですよね。
そして、のぶみ君からは「山田さん、こっちの番組にも出て下さい」と言ってもらいまして。
これはもう嬉しい話です。
のぶみ君のためたらできる事はしたいと思うんですけど、番組に行ったら、その「西野さん」とお会いする事になるわけです。
この西野さんという人には1度だけ、接近した事があります。
フジテレビで始まった「はねるのトびら」が、社会風刺のコントでキレキレだったので、絶望に効くクスリで取材に行った時の事です。
メンバーの中で、ロバート秋山さんと、北陽の虻川さんの2人に話を聞く事になっていて、その2人に話を聞くために大部屋に入ると、強い視線を感じたのです。
それがキングコング西野さんでした。
「なんで俺やないねん」と、思っていたかどうかはわからないし、そんな取材はしょっちゅうだと思うんで、気のせいかとも思うんですけど、その「ギラギラした感じ」は、印象に残ったんですよね。
「僕はディズニーを越える」という発言は、人から注目を集めるための「明らかな戦略」でしょう。
なので、その発言に「おいおい」と思ったとしても、反応したら「相手の思うツボ」なんで、これもなんかね。まんまと「反応」したくはないですよね。
僕が「西野」だった頃
ところで、なぜ僕がこの「ディズニーを越える発言」が引っかかるかと言えば、僕がかつて「手塚を越える」と言う痛い発言を本気でしていたからです。
そういう思いは、若い頃は大事な事で、その人がどんなに凄い人であっても「憧れる人を越えたい」という思いは、「若者必須の思い込み」ですからね。
西野さんは、ディズニーを越えたい理由を「1番になりたいから」と言っています。
これもまた、若い頃には、大事な思い込みの1つで、最初から「僕なんか無理です」とか言って、何もしないより、「絶対に1番じゃないと嫌」とか、ハードルを上げて「無理をする」という時代は、あったほうがいいんです。

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僕の場合は「手塚を越える」という無謀な思いを抱えて、12歳の時に少年チャンピオンの編集部に持込をして、その時に手塚先生の生原稿を見せてもらったせいで、目が覚めました。
同じ世界に入ると、改めて「その凄さ」がわかってくるわけです。
それでも、自分に対するハードルを下げたら終わりなんで、何だかんだ勢いで「俺は手塚を・・」なんて言ってましたけどね。
愛すべき「影の戦士たち」
西野さんの戦略はともかく、もし「ディズニーを越える」と言うのが本気なら、まずは大きな会社は辞めて、独立して欲しい。
そして「大衆文化とアート」の狭間で、妥協せずに「完全に毛色の違う」5つの劇場用長編アニメを作って欲しいです。
「アニメの世界」という道に入って、その世界で果たされた事のない挑戦に挑んだら「自分が1番になりたい」という思いが、どのレベルの欲望であるかはわかるはずですので、ディズニーが何度も体験した「破産覚悟の挑戦」をくり返してもらいたいのです。
ついでに言えば、アニメ業界で、もがきながらアニメに全人生を賭けてきた人達は、この「西野発言」をどんな風に聞いたのか、考えたりしました。
もちろん、西野さんは「アニメ界の巨人」になりたい、と言っていたわけではなくて、「世界一人を楽しませられる人になりたい」と、無邪気に言っていたのだと思います。
「海賊王になる」みたいな発言ですから、そんなニュアンスもわかる人がほとんどでしょうけどね。
すべては「浮世のゲーム」ではあるんで、「無邪気な発言」に、何やら言うのも野暮だとは思うんですけど、どの世界にも「命を賭けてやっていながら、報われない」という、愛すべき戦士達がいるものなので、その辺は気をつけなければいけないよな、なんて思ってます。
今回アニメ業界の内幕を描いたアニメ「SIROBAKO」の解説をしていて、「そんな事」も頭によぎったわけです。
夢はそもそも叶わないもの?
今回番組の中で僕は「夢なんか叶わないんだから」と、言っていましたけど、正確には「叶うこともある」けど「まず叶わない」っていうのが現実という話です。
それでも「挑戦」すれば、何か別の扉が開いて、充実感と共に、「新たな何か」に出会えるのです。
ここが大事なんです。
始めに抱いた「夢」なんてものは、「誰かの成功」を元にした、時代の雰囲気が産んだ曖昧な「目標」だったりするものなんです。
「イチローになる」だの「ジョブズになる」だの言っても、彼らは「生まれた時期」「生まれた環境」など様々な「努力ではどうにもならない要素」に支えられて成功を掴んだので、時代が変われば同じようにはいかないのです。
ジョブズが成功したのは、彼が「団塊世代」で、西海岸に住んでいて、天才「ウォズニアック」と友人だったからです。
こうなると、僕らは、まずは「西野さん」のように、無邪気に「私はやる」と、宣言しなけれれば、始められるものも始められないのです。
ほとんどの事が、始めてみなければわかりません。
そういう意味では、世間知らずが巨匠に憧れて、ビッグマウスで嘲笑されて、あちこちぶつかりながら、自分の道が見えてくるわけで、挑戦してきた人間には「見えてくるもの」があるわけです。
「若さ」が1番の価値か?
日本人はとにかく「若い」という事が「価値」だと思っています。
これは特に女性に対して言われる話ですけど、男だって同じようなものです。
でも、この考えで幸せになる人は誰もいません。
全員が必ず「年をとる」ので、若い女も、若い男も、必ず「劣化した」と言われるわけです。
みんなで、自分たちを不幸にしているんだから、本当にバカみたいな話です。
本当のところ、「若い時代」なんて、そんなに大したもんじゃないんです。
無知で、不安で、金も信用も経験もない、怯えてばかりの時代です。
そんな「若さ」に価値があるとするなら、それは「挑戦」と「失敗」の機会を大量に与えられている、という点くらいでしょう。
そして、それなりの挑戦と失敗をしてきた人間は「劣化」するのはせいぜい「肉体」くらいで、色々わかってくるし、自信も、経験も、手に入るわけです。
全員は「終わった人間」になるわけではないんです。
今回、僕の生誕半世紀を暖かくお祝いしてもらって、凄く照れくさかったけど、嬉しかったです。
最高の仲間に囲まれている事も嬉しかったし、そこで「若さを失ったこと」を嘆いていない自分がいたのも、嬉しかった。
男女問わず、日本人はいつも「年をとること」に怯えてます。
その事と向き合う方法は「挑戦と失敗」を重ねることです。
「若さ」は消えても大丈夫なのです。
いや、消えるのは「未熟な若さ」で、「成熟した若さ」ってのもあるんです。
どうにも、今の僕を支えているのは「そういう感じのエネルギー」みたんなんです。
そんなわけで、今年もいっぱい失敗とかしようね。
では!

山田玲司

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企画編集:山田玲司
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