コラム 2017.08.27

【第101号】さよなら占い師

山田玲司のヤングサンデー 第101号 2016/9/12
さよなら占い師

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その日はそんなに気分が悪いわけじゃなかった。
気持ちのいい秋の風が吹いていて、仕事はやれる事は全部やってあったし、むしろ気分のいい昼下がりだった。
少し時間が空いたので、映画「シェフ」のサントラなんかを聴きながら街を歩いていたら、ふと占いの人と目が合った。
隣には大きく「占い1000円」と書いてある。
僕は漫画家という「当たるか外れるか」のバクチ人生なので、常に「未来に怯える日々」を生きている。
なので、仕事の調子が悪いともう何でもいいから「あなたは大丈夫です」と言ってもらいたくなる。
根拠なんかどうでもいいのだ。闇雲な肯定が欲しいだけなのだ。
なので、僕は1時期やたらと「占い」にハマっていた。とは言っても専門の人に大金を注ぎ込んだりした事はなくて、その場だけの手相だとか四柱推命とかを適当に診てもらうだけだったけどね。
占い師のテクニックなのかどうかは知らないけど、たいていは「良い手相です」とか「いい運命です」みたいに言われるので、それでもう満足する。
僕は占いは「簡易カウンセリング」で、気持ちを前向きにしてくれればそれでいいと思っている。科学だとか整合性とかスピ乙とか、どうでもいいのだ。
なので今回も時間つぶしに「仕事のことだけ診てもらおうかな」みたいな感じで、手相を診てもらうことにした。
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担当はその「目が合った占い師さん」で、ふんわりした印象の30代くらいの女性だった。
彼女は手相も見ず、唐突に「あなたは今、人生の分岐点にいますね」と言った。
ん? そんな事言われたら「何の分岐点」なのか気になるけれど、人生なんか毎日が分岐点だ。
そんな事を手相も診ずに言われると、何か言い返したくなるけど、ここはまず相手の話を聞く事にした。
しかし、手相を診て彼女が言っている事が、何1つピンと来ない。
その昔かなり辛辣な事を占い師に言われた事があったけど、それはある意味「耳に痛い事実」を指摘されたので、気分は悪くなったけど納得はできた。
でも今回は納得できるレベルじゃない。
「あなたは右手と左手の手相が違うので、人に見せる顔と普段の自分と変えるタイプなんです」なんて言うのだ。そうかもしれないけど、殆どの人はそうだろう。社会に出たら誰だって「パジャマのまま母親と話すみたいな態度」はできない。
そして「あなたは好奇心旺盛なんだけど、結局何も続かないのよね」とも言う。
まあそういう人もいるだろうけど、僕は1つのことを40年続けている。
更に「貴方はリスクを避けたいから冒険できないんですよね」ときた。
これにも困った。僕の人生にリスクと冒険が無くなった日はないからだ。
「それで、僕は今、どういう分岐点にいるんですか?」と聞くと「それは3000円払っていただかないと」と来た。
ここで「金を出せば」か。占い師に寛大だった自分が遠ざかっていく。
今まで占い師に言い返した事はなかった僕なのに、初めて「戦闘モード」に入ってしまった。
「あの、どういう根拠で、僕が人生の分岐点にいるって判断されたんですか?」
「私の見立てです」と占い師。
見立て・・・どういう事だろう。霊でも見えるのだろうか。
「うーーーん・・」と考えこんでしまった僕に、占い師は「手相は遺伝するんで本人だけのせいではないんです」とか、これまた意味の分からない事を言ってきた。
手相が遺伝?親の性格が環境を作るのでそういうものが手相に出るって話をしているのか?
それにしてもあまりにピンとこない話だ。久しぶりにイラっとしてしまった僕はとうとう
「あなたの見立てでは、僕の仕事は何ですか?」と聞いてしまった。
すると質問に答えず「お気に召されなければお金は結構です」ときた。
「そうですか、では」と、僕は店を出た。
惨劇だった。
気分のいい昼下がりは「最悪の午後」に変わってしまった。
占いが当たらなくても別にいいと思っていたのに、どうしてこんな事に・・・
考えてみると、その占い師は僕の手相を診て1つも「良い事」を言わなかった。
「俺の全てを肯定しろ」とまでは言わないけど、何に関しても「・・・なので、ダメなんです」と言って僕を否定してたのだから、気分も悪くなる。そんなにダメな人間ならとっくに死んでるだろ、とか思えてくる。そのうちに占い師がまるで「子供を誉めない母親」みたいに見えてきた。
お客の中にはあまりに自分に自信がなくて、占い師に叱られに来ている人もいるだろうし、そういう人にとっては「向いているタイプの占い師さん」なのかもしれないけど、何とも気分が悪い。
それでも根っからの「スピリチュアル乙」と言われる属性の僕は、「これはどういうメッセージなのだろう」なんて考えてみた。
そして、これはおそらく「いい加減自分を信じろよ」というご先祖様からのメッセージなのだ、なんて思うことにした。
マイナスに倒された気分を強引にプラスに倒し返したのだ。
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そんなわけで、僕は「占い」とお別れすることにした。
すると、その数日後、ここ数ヶ月作りこんできた自信作の企画が盛大にボツになってしまった。
「大変だ!これはまさに人生の分岐点じゃないか!あの占い師は当たってたんだ!」・・・なんて、昔の僕なら困惑したかもしれないけれど、そうはならなかった。
それがダメでも上手く行った時もそれは「いつもの分岐点」で、占いとは関係ないからだ。
うーん、それにしても何か恐ろしい「占い蟻地獄」
心が弱っている時には、「いくら払え」とか言わない「神社やお寺」や「森や海」にでも行く方がいいんだろうね。
この話は「人との付き合い方」の話にも繋がってます。
ほとんどの人は、人生を変えるような「ハードな指摘」なんか欲しくないものなのです。
根拠なんか曖昧だけど、自分のいい所を見てくれて、無責任でもいいから「ここがいいね」なんて言ってくれれば、ほとんどの人はそれでいいのだ。
人は多くの場合「こう言って欲しい」と思いながら生きていて、案外それは人にバレバレだ。
なので「あ、この人こういう事を言って欲しいんだな」と思ったら、素直にそれを言ってあげたらいいんだよね。
ちなみに放送中に流れるコメントに励まされることはよくあります。
それはおそらくコメントを打ってくれている優しい人たちに「山田はこう言って欲しいんだろうな」とバレてるんでしょう。
企画が流れた最悪な気分の日に温かい応援コメントをもらって「ああ、本当に僕はもう占い師の励ましなんか必要ないんだな」と思ってました。
まあ、そうは言っても占いに頼りたくなるのも人間ですけどね。「ほどほど」にしておきましょうね。
では、皆様、秋の風を楽しみながら、今週も色々頑張ってね!
 山田玲司

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企画編集:山田玲司
矢村秋歩
発  行:株式会社タチワニ
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