コラム 2017.09.14
【第119号】「真田丸」と「トランプ」と「巨大惑星」と
山田玲司のヤングサンデー 第119号 2017/1/23
「真田丸」と「トランプ」と「巨大惑星」と───────────────────────────────────
〜真田丸がウケた2つの理由〜
僕は戦国時代には絶対生まれたくない。
あんなに過酷で残酷な時代に生きるのは勘弁してほしい。
でも、その時代に生きるのと、時代物を観るのとは違うので、観るのはそれほど苦手ではない。
今も世間では相変わらず「歴史もの」は人気があって、去年も「真田丸」が大河ドラマで久々の話題になっておりまして。
そんなに話題なら総集編くらい覗いてみようかな、なんて偉そうに「ダイジェスト版真田丸」を観てみました。
一応僕も小学生の頃までは大河ドラマ「黄金の日々」も、人形劇の「真田十勇士」も大好きだったんですよね。
そんなこんなで、「真田丸」を観てみると、出演者に会ってきた人がいっぱいいて驚いた。
榎木孝明さんから、遠藤憲一さん、藤岡弘、さん、最後は哀川翔の兄貴まで出てるではないですか。
どの人もそれぞれ「いい味」を出していらっしゃる。特に哀川翔兄さんは最後においしいところを持っていってましたね。
でもって、本編の印象を言えば、見事なまでに「三谷幸喜ドラマ」です。
何が三谷的かと言えば、あえてハズした「真面目で間の抜けたなセリフ回し」と「小さな世界でワイワイやっている感じ」です。初期の「やっぱり猫が好き」とかのシチェーションコメディの雰囲気を、まんま「戦国のお城の中」でやっている。(観てないけど他の三谷時代劇もそうなのかもね)
あえて言うなら「お茶の間感」で、それはそれで面白いとは思う。
他に何が面白いかと言えば、戦国の世で「上杉」だの「織田」だの「北条」だのの豪傑に挟まれた、山の中の小さな「真田家」が、「この場合どっちについたら良いのだ?!」と、恥ずかしげもなくうろたえている様が面白い。
これが「織田信長」とか「豊臣秀吉」とかなら、天下を語ってプライドを守る話にもなろうけれど、現実の侍はそんな余裕はなく「どうすればお家が滅亡せずに済むか?」で、精一杯だったんです、みたいな「情けない感じ」がとても「三谷作品」に合っている感じがした。
もちろんドラマが進行するにつれ、真田は「情けなさ」を超えていくドラマになっていくんですけど、やっぱり面白いのは、序盤の「さっぱりわからん!」と叫んでいる殿様(草刈正雄)でしょう。
このドラマがウケたのは「プライドどころじゃないんだよ」という、切羽詰まった時代の空気に「ホンネ」をぶつけて「みっともなく頑張る人達の姿」に共感した人が多かったのかと思う。
そもそも日本自体が大国に挟まれて「どっちに着けば生き残れるのか?」なんてやってきたアジアの小国だし、経済社会も、組織の中も同じようなものですから、それは共感する人も多いでしょう。
情けない男達の「あられもない格闘」もいいのだけれど、このドラマの女たちがまた面白い。
普段は日常の「細かいこと」をワイワイ言っている女たちが、ここっていう時に、男を叱咤する。
このドラマでは「男が女に叱られるシーン」がやたらと多いのも三谷作品らしくていい。
〜お家というエゴイズム〜
真田丸を観ていて、自分がどうして時代劇から離れたのかも思い出した。
「打ち首獄門」みたいな残酷な事実が出て来るのも苦手なんだけど、時代劇に出てくる「お家のため」というやつに、どうしても心から乘れないのです。
僕はご先祖様を大事に思っているので、先代の思いは大切にしていたいんだけど、ついつい
「お家の存続なんかもいいいから、2人で逃げて幸せにやりなよ」なんて思ってしまう。
これじゃあ時代劇には乘れない。家紋のために命を捨てるのが普通(とされた)時代だもんね。
でも、この「お家のため」という考えは少し複雑。
「お家」のため、とかいう封建的な考えは「個人の生き方を縛るから良くない」と批判されてきた。
「自分たちのお家のためには、それ以外の家が滅んでもいい」というニュアンスも入りやすいし、世界を支配していると言われているロックフェラーなどのグレートファミリーの歴史みたいに、「家(我が一族)」のためには「その他の人間はどうなってもいい」みたいな問題も起こる。
とにかく「私たち」とかいい出すと、もうそれはエゴイズムがついてくるものなのだ。
世界に経済的余裕があれば「みんなが幸せに」とか言える雰囲気もあっ
とにかく今はそれどころじゃない。生き残りゲームの真っ只中なのだ。
そんな時代になると「みんなが幸せな社会へ」なんて言うと「幼稚な幻想」だの「金持ちの偽善」なんて言われるわけね。
トランプが言っている「アメリカ第一主義」なんてのも、まさに「我が家第一」の「お家主義」だろう。
とはいえ、昔からアメリカは「海外の犠牲」無しではあれだけの繁栄はできなかった国で、ある意味ずーっと前から「アメリカ第一主義」だったわけです。そもそも「先進国」なんていう「列強国の残党」はそういうものだと思うのです。
〜俺たちだけが幸せになるんだ!〜
アメリカという「お家のために!」というノリも「真田のお家のために!」も、いわば崖っぷちの「ホンネの叫び」で、美しくはないけど、人間らしい、とも言えるけど。
「俺たちだけが幸せになるんだ!」というスローガンは、本音だけど浅い考えだ。
なぜなら自分たちだけが幸せな状態みたいな世の中は続かない事を歴史が証明しているからです。
これまた50年くらい前から言われていたことだけど、海も空もつながっているわけです。
地球は小さなバランス水槽みたいなもので、「国境」だの「民族」だので境界を作っても、隣の国が環境破壊したり戦争したり毒入り食品を作っていたら、この影響はどうしようもなく伝わってくる。
特に環境の問題は「壁」なんかでは防げないのだ。
「みつばちが消えると人類も消える」なんて話は僕が生まれる頃にとっくに警告されていたことです。
時代劇を楽しむなら、そこは「そういう時代だったんだもんね」なんて思いながら観るしかない。
なのに、直後のアメリカ大統領就任式で、まだ同じ様な事を言っている。
アメリカ大統領が言う、自分たちだけが「安全な船」で生き残ろう、なんて時代がどう動いていくか、じっくり観ていたい。
〜超巨大惑星の話〜
編集とそんな憂鬱な話をしていたら「小さいことがどうでもよくなる本って作れないかね?」なんて話になった。
僕が好きな「小さいことがどうでもよくなる話」といえば「巨大惑星の話」です。
そもそも「木星」という星がやたらと大きいのも面白い。
木星は「地球が1400個入る大きさ」だそうで、月(衛星)が63個もあるらしい。
同じ太陽系の惑星で、この差か!なんて言っていたら、太陽の話はもっとすごい。
太陽の直径は地球の109倍。地球が130万個入る大きさです。
この時点でかなりいろんなことが「どうでもよくなって」きますね。
人間なんか「塵」ですよ、なんて話に実感がわいてきます。
太陽!なんて大きいんだ。
でもまだまだ終わりません。
「おおいぬ座」とか「はくちょう座」なんかには、太陽の1420倍とかいう「超巨大星」があるのです。
そんな「メガスター」はいくつもあって、現在発見されている最大のものは、太陽の1951〜2544倍だと言われています。
もうわけがわかりません。
いよいよ「アメリカ?」「真田家?」って感じです。
ちなみに「銀河系」なるものの中に我々の太陽系はあるのですが、この銀河系の半径は5万光年。
端から端まで光の速さで10万年かかる大きさです。
そんな「銀河」がこの宇宙には2兆はあるらしい。
ここまでくると、「あれ、今自分は何に悩んでいたんだっけ?」なんてなる。
とかいいつつ「ああ、お腹減った、いなりずし食べたい」とか思う自分。
それが人間。
今週も人間を楽しんで下さいね。半径5万光年の銀河の中で。
山田玲司
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企画編集:山田玲司
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Written by
市川 剛史
どすこい喫茶ジュテーム