コラム 2017.09.23

【第128号】「オザキ」から「B’Z」の時代に何が起きたか?

山田玲司のヤングサンデー 第128号 2017/3/27

「オザキ」から「B’Z」の時代に何が起きたか?
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「 山田さん、番組でオザキはやらないんですか?」
先日のオフ会でこんな事を聞かれました。
なるほど、確かに僕の番組は4,50代の人も観てくれてるし、夢の問題なんかを語るなら尾崎豊は外せない気もする。
結局今回の放送でもオザキ話はなかったんだけど、何だろう、この国は今とても「オザキ」に厳しい感じがする。
彼が亡くなったのは1992年。その死因の真意はともかく、この当時「オザキ」に救われてきた人と、この件で彼の歌を知った世代が大騒ぎしていたものです。
どこかで書いたと思うんだけど、僕は尾崎豊と同じ学年で、彼のデビューの頃もよく覚えています。
「へえ、すごいヤツが出てきたね」なんて言うと当時の同級生は「あんなの聴くのかよ?」と嘲笑していました。
当時はすでにYMOやら大滝詠一なんかも出てきていて、「自分(夢)を熱く語る」なんてのはダサいこと、とされていたからで、この辺なんだか「意識高い系を嘲笑する」今の時代の雰囲気にも似ている気がする。
ところが、そんな「YMO的クール」に着いて行けなかった当時10代半ばだった「松坂世代」(現在30代半ば)の「青いハート」にオザキの言葉は直撃しました。
そんなわけで、オザキはその世代の圧倒的なカリスマになったわけです。
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〜「オザキ」を終わらせた「B’Z」〜
オザキは「自分の世界」で苦悩しつつ「夢」を見るのを諦めない。
そして彼はその「夢」とは何か?という事についても逃げなかった人でした。
彼は「夢なのか?金なのか?」と、膨れ上がって掴みどころのなくなってしまう「夢」の正体に向かい合い、結局「敵」なるものは「自分」なのかもしれない、なんていう苦しい所に追い込まれていきました。
おまけに時代は経済的に豊かになり、世界は「自分を排除する冷たい場所」から、考えなくてもなんとかなる「遊び場」に変わっていきました。
そんな時代に王座の椅子を獲得したのがB’Zです。
このB’Zという2人組の世界は、歌詞で悩んでいても、基本的にカッコよく、ご機嫌で、楽天的。
歌詞で描かれている「悩み」も、比較的に浅く、その曲の中で「考えなくてもなんとかなるさ」なんて、思考放棄を促して聞き手の心を楽にしてくれるのです。
「ゼロがいい、ゼロでいこう」なんて感じで「大きな問題」から気をそらしてくれるのですから、これは聴きやすい。
中には深刻なことを語っている感じの歌詞もあるのだけど、基本的に悩みなんてどうにかなる、というノリなので「苦悩」はしないのです。
「色々あるけど、夢は叶うさ、うえ~い」なのです。
そこから見ると、オザキの「自分に耽溺した苦悩」なんかはダサく見えてしまう人が多かったのでしょう。
問題解決の方向はどちらも「悲しいけど、やるしかないよね」みたいな似たような答えなんだけど、「弱さ」と「狭さ」を抱えたオザキに対して、B’Zは「愚痴(忙しくて眠れない)」と「楽天性(ウルトラソウル!)」なのだ。

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〜とどめを刺した「ホリエ」〜
オザキ亡き後、彼の様な「蒼く尖ったヒーロー」にトドメを刺したのは、ホリエモンだろう。
もちろんホリエモンの本心はわからないけど、彼の主張は「もっとちゃんと考えていけば、もっと上手くいくのに、昔の世代の人はすぐに感情的(エモい)になるし、昔のやり方にこだわるからダメなんですよ」と聞こえる。
若くして起業を成功させた彼の「もっと要領よくやればいいでしょ」という思考(嗜好)には、どこかB’Z的な楽天性を感じる。
彼が世に登場した頃には尾崎豊はすでに他界していたんだけど、「何でもかんでも金じゃねえだろ」と感情的で不器用に生きていたオザキとは対極な「お金も1つの道具でしょ」みたいな「情念なきホリエ教」の登場は、あの頃の若者が「オザキ」に託していた「何か」を終わらせたかに見える。
〜桑田佳祐の戦い〜
一方で、団塊世代が「清貧の闘争」に負け、「下品な拝金主義」に落ちていくのを見ていた、桑田佳祐(団塊世代の次の世代)は、早くからその問題に言及していました。
(この話は昔ニコ生でも少し触れていますけど、あえて書きます)
80年代中期に発表した「真昼の情景」では、貧しい途上国を「夢を見せて」食い物にする国と企業を批判しています。
家は歌の中で
〜夢を見せて飼いならす〜
なんて鋭い事を歌っている。
この時の「夢」はまさに、「今は貧しいけど、いつかはビッグになりたい」なんていう(庶民の)漠然とした夢の事です。
今もそうだけど、先進国なんていう「暴力支配とエゴイズム」に長けた国が、小魚を採って、米を作って慎ましく生きている国に押しかけて「お金を貸してやるからダム作れ」なんてやっているわけです。
そんな「国際貢献」の欺瞞を突いたのが「真昼の情景」です。
この曲では「夢なるものが曖昧だと、誰かに飼いならされる」という、ヤバい話も含まれています。
「1度の人生なら、大きな夢を叶えたい」なんて思っている人の中には「漠然として何をしたらいいかわからない」という人も多いので、そういう人ほど「夢産業」の餌になりやすいわけです。
「ライブドアに騙された」と言っている人の中には、まさにこんな「漠然とした夢」を抱えていた人がいたのだと思うのです。
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〜今こそオザキか?〜
世界が「遊び場」でいられた時代も終わって、要領よくやる賢い奴も潰され、カッコよく問題を先送りしていくもにも限界が見えてきたのが「今」という時代だと思います。
こうなると、まず自分の「夢」についてちゃんと考えておかなければ「飼いならされて」しまう時代です。
自分の欲しいのは「金」に過ぎないのか?本当にそれだけを望んでいるのか?自由っていったい何だ?
「自分が本当に望んでいることは何か?」
それは、誰の影響で、誰に言わされているのか?
自分の問題から逃げたり、都合のいい誰かのやり方にすがったりしていると、いつの間にか「飼い犬か奴隷」にされてしまう。
そうなる前に「自分」や「社会」や「愛」や「理想」なんかを、苦悩から逃げずに考える必要があるのです。
そうです。「オザキ」です。「オザキ成分」です。
何も今から尾崎豊を聴かなくてもいいんだけど、本当はどうしたいのか?何ができて、何ができないのか?なんて、彼みたいに本気で考えるのは大事でしょう。
お酒とか飲んで暴れたりはしなくてもいいけどね。
では今週も「まだ寝たいのに」と思いながら布団を出た人達に愛を込めて。

山田玲司

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保田壮一
発  行:株式会社タチワニ
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