【第134号】「商品」を超えろ
「商品」を超えろ
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僕は焦っていた。
このままだと、終電時間を越え、スタッフも出演者も朝まで帰れなくなる。
この長尺のヤンサンにいつも付き合ってくれているファミリーのみんなだって、4時間超えはさすがに限界ではないか?そんな思いが頭をよぎった。
しかも限定放送からは、CMもトイレ休憩もない、ぶっ通しの放送が続いている。
それに、いくら「仲のいい友達」とは言え、付き合わせてしまっている志磨遼平にも申し訳ない気もしてきた。
彼はとにかく不満を言わないし、それを顔にも出さない男なのだ。
もし彼が「せっかく 玲司先生が呼んでくれたんだから、キツいけど頑張ろう」とか思って無理していたらどうしよう・・
とはいえ、ここまでは完璧に近い放送だった。
初めてのニコニコ超会議レポートを「ニコ動文化論」でわかりやすく掘り下げ、完全アウェイだった「超会議放送での長渕武勇伝」で盛り上げて。みんなが知ってる「ハルヒの話」から、今回のテーマである、アルバム「平凡」の話へと繋げ、興味を引きつつ限定放送へ繋いだ。
和やかな「しみちゃんコーナー」は、遼平の参加でさらに盛り上がり、そこから曲を流しながらの全曲解説にごきげんなまま流れ込んだのだ。
完璧だ。
これなら最近入ってくれた「けもフレファン」も、今回初めて観てくれてる「ドレスコーズファン」も、愛する長年のヤンサンファンのみんなも満足してくれるだろう。
後は最後に用意した「本田宗一郎の話」でビシッと決めれば、多少の長尺でもいい感じで終われる。
僕はそう思いつつ話を進めていった。
なのに!
いつも僕の視界の中にいる「メガネの男」は、いつも以上に「じっくり」「たっぷり」時間をかけて番組を進行させているではないか・・・
「マジかよ、おっくん。もう4時間半越えて終電もヤバいぞ、もう少し進行を早めないと」
と、思って彼を見ると、「もう俺、決めてますんで」という目をしている。
マジかこいつ・・・
確かに今回の放送は物凄く楽しいし、そんなもの僕だって長々やりたいのは同じだ。
何度か「では、そろそろ・・」と、おっくんに終わりの合図を投げる。
しかし、彼は「このまま朝まで行きますんで」という顔で返してくる。
本当は僕は気がついていた。
今回の放送は、いつもの放送とは違うのだ。
おっくんは志磨遼平が「毛皮のマリーズ」を始めて、観客が数人しかいなかった時代から彼を見てきているのだ。
彼は遼平に対して「嫉妬したことはない」と言っていて、時には辛辣に彼のアルバムやライブを批判したり、アドバイスしたりしていた。
その「おっくん」が、今回は始めて「遼平の才能に嫉妬した」と言っている。
僕は彼がここまで遼平を絶賛しているのを見たことがない。
しかも、このアルバムは始めの段階から僕とおっくんも参加している。
今回のアルバム「平凡」は、志磨遼平の作品というだけでなく、どこか「俺たちのアルバム」であり、遼平と出会ってからかれこれ7年になる僕にとっても思い出深い作品なのだ。
だからこそ、各方面に許可を取ってまで全曲放送の準備をして「全曲徹底分析」をやろうと言うことになっていたのだ。
11時半を越える頃、僕も覚悟を決めた。
もういい。今回ばかりは「大人」をやめさせてもらおう。
質の低い駄話をダラダラやって長くなっているわけじゃないのだ。
これはもう人生における「聖なる1瞬」の生中継なのだ。
「すまん、みんな。こうなったら付き合ってもらうぜ」
こう覚悟を決めた頃、時刻は日付をまたぎ、僕らのトークはもう1段ギアを上げた。
こうして、僕らの放送は、過去最長の6時間を越えたのだった。
「ああ・・やってしまった」
「長尺のコンテンツは人気ないというのに・・」
なんて思っていたのだけど、結果はまったく逆だった。番組は想像以上の「大好評」だったのだ。
中にはこの6時間放送を2回も見た、という人までいる。
もちろん僕自身「最高に楽しかった放送」だったのだけれど、この評判には驚いた。
僕は、長い商業誌での過酷な人気争いの中で、すっかり「みんなが喜ぶ商品」としてのコンテンツを作る回路が染み込んでいて、今回の放送でもどこかで「満足のいく商品」を作ろうとしていた。
これは、この道で食ってきた人間にとっては「絶対的なライン」なのだ。
これをわかっているかどうかが、「プロ」として生きて行けるかどうかの基準でもある。
しかし、今回おっくんがヤンサンに求めたのは「商品」としてのコンテンツではなく、俺たちの葛藤と喜びを出来る限りそのままで見せてしまう事だった。
それは「消費を超えた体験」だ。
本当にこんな放送はめったにない。
何か特別な思いを抱えて「商業主義」を超えた暴挙に出た時、それは「商品」を超えてしまうのだ。
そんな「誠実な暴挙」に賭けた思いは、若い世代にも、上の世代にも、しっかり伝わったみたいだった。
最後に遼平が言った。
「ヤンサンの最長記録は誰にも渡さん!」
これぞ「ヤングサンデー」
観るに値する放送とは、「お得情報」でもなく「尽きない笑い」でもなく、「知的な戯れ」でもなく、こういう「何か」なのだということだ。
つきあってくれた皆様、ありがとうございました。
では、今週も「偉大なる平凡な日常」を楽しみましょう。
山田玲司
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保田壮一
Written by
市川 剛史
どすこい喫茶ジュテーム