【第179号】「シャア」という薬は何に効くか?
「シャア」という薬は何に効くか?
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おことわり:このコラムは、ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で配信されているメルマガを全文転載してお送りしています。転載期日が2018年4月下旬以降の号は、テキストのみを抜粋・転載しております。
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それにしても自分がネットの番組で「ガンダムの話」をするなんて夢にも思ってもみなかった。
しかも語って欲しい題材の中心はあの「シャア・アズナブル」ときた。
こんなの音楽の世界で言ったら「ジョン・レノンについて」だし、漫画であれば「ドラえもんについて」みたいな感じだ。
みんなが何十年も語り尽くしている「味がしないガム」みたいな題材だ。
そんなシャアだけど、ガンダムを避けてきた僕には「よく知らないキャラクター」なわけで。
「この国民的コンテンツ1番の人気者には如何なる魅力があるのか?」
そんな事を思いながらガンダムに出てくる「シャア」を見ていると、ある「効果」がある事に気づいた。
【ロシア皇太子でケネディ家の御曹司のシャア】
シャアは「王様の子供」だ。
正確には「独立の最高指導者の子供」ではあるけれど、まあとにかくその地区で「1番偉い人の子供」なので、彼を「王子」と言ってもそれほど間違ってはいない。
そんな王子が父を暗殺され、妹と共に国を追われる。
放送でも話した通り、シャアの家族はロシア皇帝最後の王「ニコライ2世」の家族に通じる部分がある。
ニコライの子供たちは親と一緒に殺されてしまったので、「もしあの子供たちが殺されずに亡命していたら?」と考えるとシャア、セイラ兄妹と重なって興味深い。
ロシア皇帝を消し去った後、ソビエトを作った共産党は独裁の色を強めていく。
そこも何か「ザビ家の暴走」に重なる。
おそらくこれも誰かが言ってるとは思うけれど、シャアの境遇は「ケネディ家」にも重なる部分がある。
いくつかの間違いは犯したものの、ジョン・F・ケネディは冷戦下のギリギリの状況で何とかアメリカを守り、ましな世界に向かって努力していた「アメリカの希望」だった。
そんな彼が暗殺された時、息子のケネディJrは3歳。
写真は有名なケネディの葬儀の時のケネディの家族。苦難の人生を歩む母のジャクリーン・ケネディ。
姉と共に悲しみに耐えるケネディJrは「シャアのイメージ」に重なる。
おそらくそれらの歴史的事実が富野氏の中で「シャア」を作ったのだろうと想像できるのだけれど、ロシアとアメリカ、それぞれの「悲劇の王子」がモデルになっているとしたら「シャア」ってのは「贅沢なキャラ」だ。
【仮の姿という生き方】
シャアの魅力は「本当は王子(+ニュータイプ)」という部分にあると思う。
そんな王子が自分の身分を隠して「1兵士」として「因縁の相手」である組織に潜んでいるのだ。
これは、そもそも文学青年で「崇高な映像作品」を作りたいと思っていたのに「子供のためのテレビアニメ」なる業界に入ってしまった当時の「富野氏の複雑な気持ち」から生まれたのだと想像できる。
この「本当はすごい私」だが「あえて」ここに潜んでいる、という思考はいい。
思えば僕も中学校の朝礼なんかで寒空の校庭に並ばされて校長のどうでもいい話なんかを聞かされている時に「本当はすごい私だが、今はあえてここにいてやるのだ」と思っていた。
もちろんガンダムのヒットの理由は「ガンプラ」や「ゲーム」や「恋愛要素」「兵器のリアリティ」など数多いのだけど、シャアの「私は本当はすごいヤツなのだよ」の感じに共感し、救われた人は多かったと思う。
何しろシャアは「仮面」か「サングラス」だ。
そんなふうに自分の「素」を隠して世間と闘う方法もあるのだ。
一方でアムロはもっとすごい。
彼は「素のまま」戦うし、シャアより「すごい才能」を持っているのに、「倒したい敵」もいない。
そもそも戦う気がない。
これは「戦争の傷を受け継いだ世代」と「傷のない世代」の対比になっていて、富野氏は「傷のないアムロ」が強い、と伝えているのが面白い。
(正確に言えばアムロはネグレクトなので傷がないわけではないけど)
【毒親とザビ家】
じゃあ今の若い世代に「戦争(過去)の傷」を受け継ぐ事が無いか?と言えば、残念ながらそんな事はない。
自分の人生に満足ができないまま、自分の理想(主に古い価値観)を子供に押し付け、否定の言葉を浴びせながら子供を支配する親たちの行為が「それ」の1つだろう。
そんな「毒親」と呼ばれる人たちが抱える呪いが、シャアにとっての「ザビ家」かもしれない。
本当に気の毒なのだけれど、こういう「毒を抱えた親」には、とにかく話が通じない。
アムロのように「素のまま」ではマトモに攻撃をくらってしまい、そのダメージに何年も苦しむ事になる。
そんな時こそ「シャア作戦」は効くと思う。
めんどくさい人が自分を支配しようとしてきた時は、心に仮面をかぶって「仮の姿」で生き抜けばいいのだ。
「私は本当はすごい」と思って生きていていいのだ。
そういえば「覆面レスラー」という人たちがいる。
あの人達たちを見ていると「覆面」を被っている時の方が「本当の自分」みたいに見えるから不思議だ。
仮面ライダーも「本郷猛」という人間でいる時より「ライダー」になっている時のほうが「本当の私」みたいに見える。
これは面白い。
またドレスコーズの話になって申し訳ないんだけど、僕は昔こんな事を志磨遼平に聞いた。
熱狂のステージが終わったばかりのタイミングだった。
さっきまでステージで「狂人ばり」のパフォーマンスを観せて観客を熱狂させていた「カリスマ志磨遼平」が、メイクもそのままに楽屋では「どもども〜」なんて、いつもの人のいい「腰の低い遼平」になってる。
あまりの変容に「舞台にいる時って大変?」と聞くと
「舞台のほうが楽なんスよ」と彼は言った。
「むしろあっちのほうが本当の自分なんで」と言うのだ。
「本当の自分をさらしているのはステージの上」だというわけだ。
なるほど。ヤツのステージが「嘘くさくない」のはそのせいだったのか・・
思えば社会の中で「仮面を被らないで生きる」なんて方が難しい。
「仮面」で日常を生き伸び、ここぞという時に仮面を外す。
いいね。この作戦。
アムロで行けない人にはオススメです。
PS、ヤンサン名古屋ツアーに来てくれた皆様、ありがとうございました!また遊びましょう!
山田玲司
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企画編集:山田玲司
平野建太
発 行:合同会社Tetragon
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Written by
ナオキ
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