【第195号】「漫画で戦う」とは何か?
「漫画で戦う」とは何か?
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おことわり:このコラムは、ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で配信されているメルマガを全文転載してお送りしています。転載期日が2018年4月下旬以降の号は、テキストのみを抜粋・転載しております。
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僕は大学生の頃、付き合っていた彼女とケンカばかりしていた。
あまりに同じようなケンカが続くので、僕は「僕らは毎回このパターンでケンカになってる」という内容の漫画を1話分描いて彼女に読ませた。
口で何度説明してもわかってもらえないから「漫画」で伝えようとしたのだ。
そんな努力も虚しく彼女とは別れる事になるのだけど、今思うとこの時の僕の行動は、漫画家として「正しい」。
「言葉では伝わらないもの」を伝えてくれる力が漫画にはあるのだ。
先週の放送では「エンタメ」と「作家性」についての議論が盛り上がった。
漫画には「楽しませてくれるもの」と「人生を変えてくれる」ものがある。
これは漫画に限らず、映画やドラマや音楽、絵画、小説などにも当てはまる。
僕は「意味もなくくだらないもの」も好きだけれど、本当に探しているのは「自分の常識を変えてくれるもの」だ。
そしてそんなものを作ってみたいと思って生きてきた。
だから僕の創作の衝動はまず初めに「今まで信じていたものより素晴らしいものが見つかった!」という所から始まるのだ。
相手は自分とは違う常識を信じて生きている。
そのせいで不幸になってしまうこともあるのに、それを疑わない。
そういう人が「かつての自分」と重なる。
このままだとあの人は「僕が落ちた崖」と同じ崖から落ちてしまう所を想像してしまう。
崖から落ちない方法も、崖から這い上がる方法も自分にはわかっている(気がする)のに!
こうなるともう「伝えるしかない」と思ってしまう。
彼女に伝えようとした時の様に「漫画」という最高のツールを使ってそれを実行する。
そうは言っても、作り手が観る人の「常識」を覆すのは本当に大変。
人は「変わる」のが嫌いだし、多くの場合、説教も現状否定もされたくないのだ。
エンタメを求める人の多くは「そのままでいいんですよ」と言ってもらいたいのだ。
そんな人に「新しい何か」を伝えようとするなら、そのための「蜜」や「砂糖」が必要になる。
それは表面的な「現状肯定」や「エロ」や「スカッとする暴力」や「わかりやすい正義」だったりする。
自分の主張や趣味に反していても、それをやらなければステージには出られない。
僕の人生のほとんどが「この問題との格闘」に費やされてきた。
そして何年も前に、エンタメと作家の主張(メッセージ)の問題の結論が出た。
それは「一緒に遊んでくれる人も大事」「自分の固定観念を変えてくれる人はもっと大事」という「当たり前の結論」だった。
そんなわけで僕は、時に「意味もなく遊んでくれる人」になり、時に「人生を変えるプレゼンテーター」になる事にしたわけです。
幾原邦彦監督の作品に胸が熱くなるのは、彼が僕と同じ問題と格闘していて、それから逃げなかった事が伝わるからだ。
ところで。
CICADAという漫画は「漫画で戦う」という話です。
かつての漫画は「なんでもあり」の空気に満ちていた。
漫画を描くなら「何でもいいから自分の好きに描いてみなよ」と、言ってくれる「遊び場」だった。
なのでみんなが怯える事なく存分に自分の想像力を発揮しまくった。
CICADAで出てくる漫画は、そんな時代の漫画だ。
誰かの有名な言葉に「人間が想像できたものは、必ず現実化できる」みたいな言葉がある。
「空を飛びたい」とか「世界中の人と話したい」とか「この瞬間の映像を残したい」などの「想像」は見事に実現した。
だとしたら、未来を良くするために1番大事なのは、この「想像すること」で間違いないだろう。
「イマジン」だ。
漫画は「イマジン」の産物。
漫画を描くことは「想像する」ことで、それを共有した読者は「作者の作る世界」に自分自身を変えられるのだ。
サッカー漫画を読んでサッカー選手になった人は、漫画によって自分を変えられているのだ。
『作者のイマジネーションがどこかの誰かの人生を変える』
こんな凄い力はあるだろうか。
少なくとも、あの頃の僕は「それ」で多くを学び「それ」で幸せになった。
そして僕を変えてくれた漫画家はみんな「面白い人」で、優しかった。
だから僕もそうありたいと思う。
山田玲司
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平野建太
Written by
ナオキ
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