コラム 2018.05.12

【第155号】こんな時代に効く映画とは?

山田玲司のヤングサンデー 第155号 2017/10/2

こんな時代に効く映画とは?

 

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おことわり:このコラムは、ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で配信されているメルマガを全文転載してお送りしています。転載期日が2018年4月下旬以降の号は、テキストのみを抜粋・転載しております。

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ダークナイトでお馴染みのクリストファー・ノーラン監督最新作「ダンケルク」

 

敵を倒すのではなく「仲間を逃がす」という戦争映画は新鮮で、まるでVRのような「1兵士の目線」に特化した演出も素晴らしかった。

 

CGを使わないで本物の戦闘機を使った撮影が見せる映像は、戦闘機以外の光る海や空の美しさを引き立てていて、これもまた素晴らしい。

 

「こんな美しい空の下で、自分たちが作った地獄に苦しんでいる人類」という存在が本当に哀れで小さく見えてくる。

 

ダンケルクは「戦争」を始める前に、「戦争という選択肢はこういう事態に向かうことでもある」という「現実」を冷静な視点で描いている。

 

ダンケルクでは会話がほとんど無い。

 

いざ戦闘が始まれば議論なんかできないのが「戦争」なのだ。

 

正義だ悪だ、人の命だ、民族の誇りだ何だ、の高尚に見える「国の正論」なるものが、「戦争」になるとその解決方法は単に「暴力での決着」でしかないからだ。

 

難しい言葉や資料を並べ立てて、相手の短所を延々と罵りあって、最後はカナヅチで相手の頭を叩き割る、みたいなのが「戦争というもの」だろう。

 

その「カナヅチで相手の頭を叩き割る」状況が「ダンケルク」ではそのまま描かれている。

 

ダンケルクを観た直後に、おっくんは、「こんなもん全世界人類必見の映画ですわ」と言っていた。

 

僕もそう思う。

 

ところで、ミサイルだ選挙だ、大衆迎合主義だ、右だ左だ陰謀だ、とかなんとか。

やたらと騒がしい世の中になってきた。

 

僕には、直接「食べ物」に影響する地質や水質の汚染や、東北や九州の被災者救済や、気候変動の根本的解決の方が大事だと思えるのだけれど、あいかわらず人類は「カナヅチで人を殴る話」をしている。

 

こんな時代にはどんな映画を観るべきか?

 

それはもう「フォレスト・ガンプ」しかないだろう。

 

いやいや、もちろん他にもいい映画はあるけれど、今の僕が考える最高の「今観るべき映画」はこれだと思う。

 

もちろん、大半の人はこの映画を観ていると思う。

何しろこの映画、恐ろしく深いテーマを抱えているのに「ユーモアたっぷり」でテンポもいい。

泣かせどころも「あざとさ」や「押し付けがましさ」がない。

 

この映画が現代に観るといい理由の1つは、主人公ガンプが信じる相手がたったの4人だけ、という部分に集約される。

 

知的障害者あつかいをされるガンプは、様々な「仲間はずれ」にあう。

そんな彼がバスに乗っても誰も「隣の席」を空けてくれない。

 

そんな中で「ここ座りなよ」と、隣の席を空けてくれるのが生涯の恋人「ジェニー」であり、人生最高の友人「バッバ」だ。

 

もう1人の理解者はガンプの母だ。

 

母は彼を「あなたは他の子より劣ってなんかいない」と何度も言う。

そして「バカ」だと言われ続けるガンプに「バカというのは、バカなことをする人間のことよ」と言う。

おかげでガンプは「軸」がぶれない。

「自分は劣っていない」「自分はバカな(愚かな)ことはしない」という信念のもとに生きるのだ。

 

最後にガンプが信じる人は、ベトナム戦争の時に上官だった「ダン中尉」だ。

僕のCICADAに出てくるインディゴが始め「中尉」だったのは、このキャラクターが好きだったからだ。

 

ダン中尉は、兵士の一族に生まれ、先祖は様々な戦争で国のために戦死している。

そんな彼にとっての名誉は国のために死ぬことなのだ。

 

ガンプがダン中尉を「信じる理由」は、観ているうちに解ってくる。

 

この中尉という男は、口が悪く、威圧的だけど、とにかく彼は人を「差別」しない。

ガンプと初対面の時に彼は、バッバとガンプが仲のいいのを見て「お前ら双子か?」と言う。

 

どう見てもバッバは黒人でガンプは白人だ。

 

そんな中尉は部下の命を自分の命よりも大事にする。

 

砲弾の降り注ぐジャングルで重症を負った彼は「俺はいいからお前は逃げろ」と、ガンプに叫ぶ。

 

それでもガンプは、ダン中尉を抱えて全力で銃弾の飛び交う「地獄のジャングル」を走るのだ。

 

もう一方で「バッバの人生」も描かれる。

 

「ベトナムへ行けば金が入る」と聞いて入隊したバッバは、そのお金で「エビ捕り漁」を始めたいと言う。

 

彼には「共産主義勢力の脅威」なんか関係ない。

ただ単に「先祖代々やってきたエビ捕り漁」をするために「船を買う金」が欲しいだけだ。

 

そんなバッバは、ジャングルで砲弾を食らって死んでいく。

 

最後に彼はガンプに言う。

「どうしてこんなことになっちまったんだろうな」

 

この映画ではガンプ以外の全てのキャラクターが「時代の空気」という「魔物」に翻弄されていく。

 

悪い人ではないのに、その時代、その時代に「みんな」が言っている「何か」に「自分」を見失う。

多くの実在する有名人(多くは政治家、活動家)はみんな殺されていく。

 

「自分を見失ってしまうキャラクター」で最後まで苦しむのが、ガンプの最愛の人「ジェニー」だ。

 

ジェニーはガンプに言う。

「危なくなったら、『信念』とか『誇り』なんて、どうでもいいから、逃げるのよ、ガンプ」

 

彼女は叫ぶ「走れ!フォレスト!走れ!」

 

〈逃げてもいい〉

 

これがこの映画の核心部分だ。

 

最後までこの映画を観ていると、(この映画にも出てくる)ジョン・レノンが歌った「GOD」という歌を思い出す。

 

「僕はキリストもブッダもケネディもビートルズも信じない」

「僕は僕を信じる」「僕と(愛する)ヨーコを信じる」

 

なんて歌っている。

 

僕は「フォレスト・ガンプ」という映画は、時代に翻弄されて「自分」を見失った「普通のアメリカ人」の「反省映画」だと思うのだ。

 

映画の中に「ベトナム反戦活動」をしている若者が出て来る。

ベトナム戦争の欺瞞を暴き出し、平和な世界を実現させようと活動しているグループのメンバーだ。

しかし彼は、(恋人の)ジェニーを殴ってしまう。

 

翌日、彼はジェニーにこう言う「あの時はイラついてたんだ」

「ジョンソンのやつが嘘つきだし・・」

ジョンソンは当時の大統領だ。そんな彼をガンプは許せない。

 

「仕方ないのよ」と、彼をかばうジェニーにガンプは言う。

 

「でも僕は君を殴らない」

 

本当に「いい映画」ってのはある。

 

もちろん「今の世の中」に不満がある人や「自分の暮らしが不幸だと感じている人」は、必ず投票に行くべきでしょう。

 

「他にもある選択」を取るより「カナヅチ」を取る選択がどういう事かも考えたほうがいいでしょう。

 

と、同時に「吹き荒れる時代の風」と、如何にして距離を取るかを考えるのにオススメです。

 

そう言えばこの映画の日本公開は1995年。

バブル崩壊と阪神大震災、オウムのテロ、という「混乱の始まり」の時期でした。

 

今1度この映画を観て欲しい「嵐の季節」です。

 

山田玲司

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企画編集:山田玲司
平野建太
発  行:株式会社タチワニ
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