コラム 2017.09.16
【第121号】パンチラという踏み絵
山田玲司のヤングサンデー 第121号 2017/2/6
パンチラという踏み絵
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いやー。
嫌な事を思い出してしまいましたね。
前回放送で言っていた「パンチラ」の話です。
僕がデビューしたのは青年誌の「コミックモーニング」でした。
なぜ少年誌ではなくて青年誌を選んだのかと言えば、80年代当時の青年誌は物凄く活気があって「新しい何か」が生まれる雰囲気があったからです。
大友克洋先生の「アキラ」も、高橋留美子先生の「めぞん一刻」も、江川達也先生の「BE FREE」も青年誌に連載されていました。
大人にも通用する深さや斬新な表現が許される雰囲気が当時の青年誌にはあったのです。
実際僕がデビューした時期のモーニングでは、ショートコミックを30作以上も載せた増刊や、オールカラーの増刊なども出していて、その中からは芸術性の高い作品も多く生まれていたのです。
(写真のカラー原稿はその時のものです)
「よーし、ここで俺も革新的な漫画を描くぜ」なんて意気込んでデビュー(たまごとこんにゃくの恋愛の漫画)したものの、どうにも人気にはつながらない。
人気がないと連載は無くなり、漫画の仕事ができません。
どうしたら漫画の人気を上げられるのか?なんて悩みに悩んでいたのが20代前半の毎日でした。
師匠の江川先生は「俺の分析では、青年誌で人気を取るために必要なのは”スケベ”アクション”人情話”だよ」なんて言っていました。
〜この俺様がパンチラなどを描くのか?の苦悩〜
問題はそこでした。
アクションやら人情話を描くのはできても、僕はどうしても「スケベ(エロ)」を漫画に描くのに抵抗があったのです。
そんな人間なら初めから少年誌に描けばいいって話なんだけど、当時の少年漫画のノリは嫌いだったし、大人に通用する漫画を描きたかったのだからどうしようもない。
おまけに江川師匠の漫画は「これでもか」のばかりにエロが連発して出てきます。
そしてそれが爆発的に売れているのだから、更に逃げ場がない。
「パンチラくらい描けばいいのに」という声が周囲から聞こえてきます。
なのに僕はひたすら「そんなものを描くために俺は漫画家になったわけじゃないんだ」なんて言っていました。
なんて自意識過剰で生意気な若造でしょう。
おまけにこの若造ときたら、デビューの時に「デビューのためなら仕方ねえ」と、しっかり「下着姿の女が海辺にいるシーン」なるものを描いてる前科者なのです。
しかも堂々とヌードを描くのではなく「下着」という腰の引けたチキン野郎状態です。
何度思い出しても恥ずかしい「オレサマ病」の時代です。
(写真の漫画がそのデビュー作です)
当時の僕は「人気取りのためにエロを描くなんて俺様のするべき事じゃない」なんて思っていたわけです。バカですね。器が小さすぎですね。
〜パンチラ踏み絵〜
そんな僕も漫画家を続けるためには「パンチラも描かねばならない」という状況に追い込まれ、ついに「その時」を迎えます。
「俺は・・・・漫画そのものの魅力で読者を獲得できなかった・・・・そして「エロ」の力で生き残るという選択をしてしまった・・・・」
なんて島本和彦先生のキャラみたいなセリフを吐きながら当時の僕は苦悩していました。
エロを餌にする作戦に出た「Bバージン」は面白いように売り上げを伸ばし、ビデオ化され「Bバージン効力読本」まで作られました。
勢いで少年サンデーからの連載の依頼まで来て、僕の地獄の日々は終わったかに見えました。
でも、いつまでも僕は「俺は魂を売ってしまった」と苦悩していたのです。
〜背後から刺せ〜
実は何度か書いたことがあるのですが、この当時「自意識過剰のオレサマ病」だった僕に「読者を抱き込んでからメッセージを伝えればいい」と言ってくれた人がいました。
今回取り上げた映画「沈黙」で、信仰を曲げない主人公ロドリゴを説得するフェレイラのような人です。
その人は「読者を安心させて抱き込んだあとに背後から刺せばいい」みたいに僕に言ってくれたのです。
今考えると「エロを描く事が自分を否定することになる」なんて根本的に間違っているんだけど、とにかく当時の僕は、娯楽のためにエロを乱発する漫画家が「不純」だと思っていた「お子様」だったわけです。
そんなお子様には「いいから読者(社会》を騙していきなよ」みたいなアドバイスは最高に効きました。
ちなみにそれを言ってくれた人が今のオリジナル創作系漫画のためのイベント「コミティア」を作った人なのです。
〜転んだら失うのか?〜
沈黙の核になるテーマの1つは「信仰を捨て去ることをどう考えるか?」という事です。
作中でそれは「転び」と言われていて、その言葉は「捨て去る」ではなく、「もう1度起き上がる」というニュアンスを含まれた言い方になっています。
人はそれまでの人生で得た何かを頑なに「信仰」していることがあります。
僕にとっては「エログロのサービスで人気を得ようとするのは邪道だ」という信仰でした。
でも1度「転んで」みると、ぜんぜん違う景色が見えてくるのです。
Bバージンをエロを目当てに読んでいた読者の中から、僕の「本当に伝えたいこと」を受け取ってくれている人が現れてきたのです。
今思えばおっくんなんかはまさに「その1人」です。
僕が「転んだ」せいで出会うことができた人は大勢いたわけです。
そして僕は、たとえ「魂を売った出だし」で始まっても、絶対に「最後まで投げ出さない」という気持ちで漫画を描くことに決めました。
〜何を信じているのか?〜
「自分の信念」なんて言うと聞こえはいいんだけど、なぜそれを信じているのか?何を目的に信じているのか?なんて事は考えたほうがいいと思う。
番組で言っていた「自分だけは宝くじに当たる」とか「みんなが言っているから大丈夫」なんていう信仰は1度転んだほうがいいかもしれない。
その時は痛くてもいずれ「違う景色に出会える」と思うからです。
そんなわけで、お騒がせしておりますが、僕の原作漫画「CICADA」の1巻がいよいよ今週10日に発売になります。
ある程度売れないとその先の物語が描かせてもらえない、という世知辛い状況なので、ぜひよろしくお願いします。
では!転んだり起き上がったりの人生を楽しんでね!
山田玲司
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企画編集:山田玲司
保田壮一
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発 行:株式会社タチワニ
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Written by
市川 剛史
どすこい喫茶ジュテーム